2024.10.04
がん【医師監修】血管新生とは?
生まれたときにすでに作られている血管。この血管をベースとして私たちは生きていきます。ですが、時として新たな血管が作り出されることもあります。それが「血管新生」です。
この記事では、血管新生に関して解説します。
血管新生とは?
「血管新生」とは、すでにある血管から枝分かれして新たな血管が作り出される生理現象。
私たちの一生の中で血管が作られるのは、基本的に母親のおなかの中にいる胎生期です。母親の体内にいるときに血管が形成され、体の中のすみずみまで動脈や静脈を作り、血管を通して栄養や酸素、老廃物を運搬して成長していきます。
生まれたときにはすでに作られている血管。この血管をベースとして私たちは生きていきます。ですが、時として新たな血管が作り出されることもあります。それが「血管新生」です。
血管新生が起こる場合、何かしらの理由があります。新たな血管を形成して酸素や栄養素の運搬が必要と体が判断したときに血管が作り出されるのです。基本的には体のために必要な生理現象なのですが、中には何らかの刺激で不用意に起こる病理的現象で血管新生がなされるケースもあります。
血管が作られる仕組み
私たちの生活の中で生理的現象として血管新生が起きる場面は、ケガをしたあとの傷を治すときです。損傷した組織を回復させるため、必要な栄養や酸素を運搬する必要があり、新しい血管を作ります。そのときのメカニズムを例として、血管が作られる仕組みを確認していきましょう。
【創傷の治癒過程を参考にした血管新生のメカニズム】
※引用:国立循環器病研究センター
1.組織が損傷し、血管が傷つくと損傷した血管内皮細胞に誘導された血小板が創部に集まる
2.このときに活性化した血小板からさまざまな成長因子(細胞の増殖や分化を促す内因性たんぱく質)が放出される
3.その中にある「血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor: VEGF)」 、「線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor :bFGF)」などが、虚血に陥った組織に酸素・栄養を供給するために既存の血管より新しく血管を作り出し分枝するよう働きかける
4.新しい血管を作り出して虚血状態の組織に酸素や栄養素を供給する
5.組織が回復した後、血管新生阻害物質を放出しもとの状態まで戻る
創傷の治癒は「出血・凝固期」「炎症期」「増殖期」「成熟・再構築期」と移行し治癒に向かうのですが、血管新生が起こるのは「増殖期」。その後「成熟期」には新生血管網が周辺組織と共にリモデリング(機能や構造の変化)され、皮膚の下の組織も修復が完了します。
生理的な血管新生は創傷治癒のときだけではなく、女性の生理の要因となる子宮内膜の増殖や排卵後の卵胞が受精しなかった場合に黄体という組織に変わる際にも血管新生がなされます。
血管新生と病気
創傷の治癒過程のように生理的な反応で血管新生が起きる場合もあれば、病的な要素が原因となって血管新生が起こる場合もあります。ここでは病理的現象で起きる血管新生について紹介します。
【慢性関節リウマチ:RA】
慢性関節リウマチは、体のさまざまな関節に起こる慢性的な炎症疾患です。この病態は、とくに滑膜組織の炎症が特徴。慢性関節リウマチは「滑膜」に対して血管新生がおこり関節の滑膜を造成し、結果として関節軟骨の破壊や変形をきたす病気です。
【動脈硬化】
動脈硬化は加齢や高脂血症、高血圧などにともなって進行する生活習慣病のひとつです。動脈硬化はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血管内に沈着することで血管内の内皮細胞が損傷します。このときに血管新生因子が分泌され、血管新生が誘発されると考えられています。
【糖尿病性網膜症・加齢性黄斑・緑内障】
いずれの疾患も眼内の血管新生をおもな病態としていて、「視内血管新生疾患」と呼ばれています。基本的な病態は網膜の血管の透過性が亢進したり、虚血・破綻が生じることにより血管新生が起こります。結果として本来透明性のある眼球内の透過性が失われ、視力や視野に障害が起こる眼科系の疾患です。
血管新生とがん
がんの病態像にも血管新生は大きくかかわっています。体内でがん細胞が発生したのち、「悪性腫瘍」として組織が増大するときには必ず血管新生が起こるのです。
実は加齢とともにがん細胞は、ほとんど人間の体内に発生するとされています。前がん細胞(正常な細胞から徐々にがんに向かっている細胞)が大きくなり、それが悪性腫瘍として増大するかどうかには血管新生に依存するところが大きいのです。
がんは何らかの遺伝子に異常が起きて、細胞分裂する際にそのまま異常細胞が増殖する病気です。
がん細胞を大きく成長させ、悪性腫瘍になるためには酸素や栄養の供給が必要不可欠。つまり血管新生をして、がん細胞と血管のつながりを作る必要があります。近年の研究ではがん細胞自体が成長するために、周囲の正常細胞を刺激しVEGF・bFGFなどを放出させ、積極的に血管新生を誘発することがわかってきました。
がんにおける血管新生は腫瘍の悪性化や転移、浸潤などのステージに密接に関係しています。
【血管新生が必要なステージ】
・前がんの段階から悪性腫瘍化するステージ
・悪性腫瘍として細胞が増殖するステージ
・悪性腫瘍が血管内に浸潤するステージ
・血行性に腫瘍細胞が運ばれ遠隔転移するステージ
このようにがんの病態像が進行するさまざまなステージで、血管新生が行われています。最近のがん治療では、「がん細胞に対しての血管新生を阻害する」とがんの治療を好転させる傾向にあることがわかっています。 つまり、「血管新生を阻害するとがんは小さくなる、進行が遅くなる」とされているのです。
血管新生抑制の効果とは
冒頭に述べたとおり、生理的な血管新生であれば役割を終えたときに生理反応として血管新生抑制因子が分泌され新生血管は役割を終えます。(場合によりそのまま栄養血管として残ることもあります)しかしながらがん細胞に対して生み出された新生血管は、血管新生の抑制因子が働かず、常にがん細胞に対して酸素や栄養を供給し続けるのです。
そこで近年急速に注目を浴びているのが「血管新生阻害薬」を用いた治療。 先の項でも述べたとおり悪性腫瘍に酸素や栄養を供給する血管がなくなれば、がんは小さくなるのがわかっています。がん細胞に対しての血管新生阻害因子が分泌されないのであれば、外から血管新生を阻害する因子を補充して栄養血管を絶つことを狙っています。
従来の化学療法とは異なり悪性腫瘍に対して栄養を供給する血管のみを狙った治療法です。 悪性腫瘍に栄養を供給する血管は通常の血管とは異なり特異的なので、狙いを定めて治療できます。
血管新生阻害薬は、がん細胞が持っている特定の分子(遺伝子やタンパク質)をターゲットとして、その作用を抑える薬である「分子標的薬」に分類されます。
悪性腫瘍そのものを攻撃するというよりも、腫瘍の増殖を抑えたり遅らせることを目的として使われます。
分子標的薬の詳細は以下の記事をご覧ください。
>>抗がん剤の種類について
血管新生阻害薬は、血管新生するステップをさまざまな方法で阻害します。VEGFを認識して結合したり、VEGFの受容体や血管新生に携わる内皮細胞表面にある受容体やシグナル伝達経路などと結合したりして血管新生が起こるのを阻害します。
まとめ
がんと血管新生は切っても切り離せない密接な関係です。がんの病態が進行するには血管新生が必須であり、がんの治療を目指すのであれば血管新生を抑制する治療法を検討する症例も多くあります。
血管新生のみを標的にした治療を単独でおこなうわけではありませんが、さまざまながんの治療と組み合わせることで治療成績の向上を目指すことも可能です。さらに、患者さんの身体の負担を軽減させられるケースもあります。
がん治療には、血管新生阻害だけではなく手術や化学療法などさまざまな治療法があります。なかでも近年注目されているのが「中分子フコイダン療法」です。がん治療との併用によりさまざまな効果が期待されるようになりました。
さらにフコイダンはもずくなどのような海藻類に多く含まれているので、毎日の食事から気軽に摂取できるのも魅力です。 今まさにがん治療を受けている方だけではなく、がんの予防のために意識して積極的に摂取して毎日の健康維持に役立てたいですね。
フコイダンを多く含む「もずく」についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
>>フコイダンを多く含む「もずく」についてご紹介
フコイダンの種類や成分をもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
>>フコイダンとは何か?種類や成分と健康への影響について解説
フコイダンの作用をもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
>>健康食品として注目されるフコイダンとは?
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
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