2024.05.29
がん肝臓がんの治療法|最新医療と選択肢をわかりやすく解説
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、肝臓がんに罹患しても初期は自覚症状がほとんどなく、発見が遅れることも少なくありません。この記事では、肝臓がんの治療法について、がんの進行度や肝機能の状態に応じた選択肢をわかりやすく解説し、最新の全身療法の進歩や治療戦略まで幅広くご紹介します。
目次
肝臓がん治療の決め方
肝臓がんは他のがんに比べて手術以外の治療法が多く開発されている疾患です。さまざまな治療法が作られた背景として、手術が困難な症例も多いことが挙げられます。肝臓がんでは、肝炎や肝硬変を併発しているケースも多々あります。肝機能が悪いために出血しやい、治癒に必要なたんぱく質が減っているなどの理由で、手術を受けること自体が困難な症例も少なくありません。肝臓がんの治療は、がんのステージ(進行度)や患者さんの肝機能に応じて日本肝臓学会が掲げる「肝細胞がん治療アルゴリズム」を基準に選択されます。

(参照:肝癌診療ガイドライン 第2章 治療アルゴリズム|日本肝臓学会、https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/medical/2017_v4_chap02.pdfP68)
Child-Pugh分類
肝臓の治療法を決める際に、肝機能の指標を評価する「Child-Pugh分類」が広く使われます。血液検査により出される血中ビリルビン・アルブミン濃度、腹水の有無、肝性脳症の程度、プロトロンビン時間(PT)の項目を総合して肝臓の機能の重症度を判断します。GradeA~Cの3段階に分類され、A→B→Cと移行するにつれて肝機能は悪いと判断されます。

(参照:医師の便利計算ツール Child-Pugh分類、https://doctor-fun-life.com/child-pugh/)
肝機能が良好な「Child-PughA」では、外科的治療や積極的な治療が可能ですが、「B」や「C」の場合は、肝臓への負担が少ない治療法が選ばれる可能性があります。
肝臓がんのステージ分類

(参照:肝細胞がん(hcc)の病期 | 武田薬品工業株式会社、https://www.takeda.co.jp/patients/hcc/stage/)
がんの進行度は、腫瘍の大きさや個数、血管や他臓器への浸潤の有無によって、ステージⅠ〜Ⅳに分類されます。
肝臓がんの各ステージについてはこちらの記事も参考にしてください。
>>【肝臓がんステージ2】主な症状とは?余命や生存率を伸ばすためにできること
>>【肝臓がんステージ3】症状を進行度から解説。余命や生存率を知り、適切な治療で完治を目指す
>>【肝臓がんステージ4】余命や生存率は?知っておくべき適切な治療法と完治に対する考え方
肝臓がんの治療

(参照:肝がん|愛媛県立中央病院、https://www.eph.pref.ehime.jp/epch/guide/results/cancer/liver-cancer.html)
肝臓がんの治療は、がんの進行度や数・大きさ、肝機能の状態、全身状態などによって異なります。手術による切除から薬物療法、局所治療、さらには移植や緩和ケアに至るまで、他のがんと比べると多数の治療法があります。ここでは、肝臓がんに対して実施される主な治療法について、それぞれの特徴と適応を解説します。
肝臓がんの手術

(参照:肝疾患、胆道疾患、膵疾患について 豊中市、https://www.city.toyonaka.osaka.jp/hp/outpatient/shinryoka/syokakiG/kantansui/kantansui_2.html)
肝機能が保たれていて、がんの範囲が限られている場合は手術による外科的切除が選択されます。肝臓がんの手術では、がんを含めたがん周辺の肝臓を切り取り摘出します。腫瘍の位置や大きさ、個数に応じていくつかの術式に分けられます。
肝臓は肝臓に入る門脈という血管から枝わかれした、8つの「区域」に分けられています。この区域はまとめて「葉」と呼び、左右に分かれています。肝臓を切除する手術の術式として、切除するサイズが大きい順に「葉切除」「区域切除」「亜区域切除」「部分切除」と分類されます。また、がんだけを除去する「核切除」という方法もあります。手術は開腹または腹腔鏡でおこなわれ、近年では患者さんへの負担が少ないロボット支援下腹腔鏡手術の導入も進んでいます。
肝移植

(参照:肝移植について | 熊本大学医学部附属病院 移植医療センター、https://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/transplant/patient/liver_transplant/05_07_02.html)
肝移植は、進行性の肝疾患により末期の状態にあって、移植以外の治療法では余命が1年以内と考えられる方が対象とされています。肝臓がんの場合、移植の適応基準として用いられるものの1つが「ミラノ基準」です。

(参照:看護roo![カンゴルー]、https://www.kango-roo.com/learning/7077/)
上図の条件に当てはまる場合、保険診療の範囲内で肝移植が適応できると判断されます。
肝移植は生体部分肝移植と脳死肝移植の2種類に大別されます。日本では生体部分肝移植が主流です。

(参照:肝移植 | 山口大学大学院医学系研究科 消化器・腫瘍外科学、https://www.yamadai-gesurgery.jp/class/medical/liver/)
生体部分肝移植とは、健康な人の肝臓の一部分を提供してもらい、病気の肝臓を取り除いて移植する手術です。肝臓には高い再生力があるため、ドナーに残した肝臓も移植された肝臓も時間とともに大きくなり、徐々に十分な肝機能を取り戻します。
成人の生体肝移植では主に肝臓の右葉が移植されます。ドナーとなれるのはレシピエント(患者さん)の身内、あるいは一定の基準を満たした人です。レシピエントと血液型が一致、または適合していることが望ましいです。

(参照:肝移植 | 山口大学大学院医学系研究科 消化器・腫瘍外科学、https://www.yamadai-gesurgery.jp/class/medical/liver/)
脳死肝移植は海外の主流な移植法で、脳死と判定された方から肝臓の提供を受けて移植します。移植を希望される患者さんで、肝移植が必要であると判定された場合に臓器移植ネットワークに登録さます。提供者が現れると緊急性の高い患者さんから順に移植がおこなわれます。
穿刺局所療法
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(参照:肝がんはどうやって治療する?|エーザイ株式会社、https://patients.eisai.jp/kanshikkan-support/know/livercancer-treatment.html)
焼灼療法は、手術より患者さんの負担が少ない局所治療として広くおこなわれています。以前まではエタノールを注入してがん細胞を壊すエタノール注入法が主流でしたが、腫瘍部分へ均一に拡散することが難しく、再発しやすいなどの問題がありました。
近年では、ラジオ波焼灼法やマイクロ波凝固法などが登場し、患者さんの負担が少なくかつ効果的な治療が進められるようになりました。
穿刺局所療法は局所麻酔で治療が可能です。がん細胞の腫瘍部分をめがけて針を穿刺し、焼灼や凝固により腫瘍細胞を壊死させます。外科手術が難しい場合や、腫瘍が小さい場合でも治療ができるのが強みです。以下の3つが代表的な治療法です。
- ラジオ波焼灼療法(RFA):針を刺して高周波でがん細胞を焼く
- マイクロ波凝固療法(MWA):マイクロ波で加熱・凝固する
- 経皮的エタノール注入療法(PEIT):エタノールでがん細胞を壊す
ただし、腫瘍部分が体内に残るため、肝切除と比較すると再発リスクが懸念されます。
塞栓療法

(参照:肝がんはどうやって治療する?|エーザイ株式会社、https://patients.eisai.jp/kanshikkan-support/know/livercancer-treatment.html)
塞栓療法は、腫瘍を大きくさせるための栄養供給路を断ってがんを壊死させようとする治療法です。手術や局所療法ができない場合に選される治療で、繰り返し実施できます。
肝臓に流れてくる血管として、肝動脈と門脈という2つのルートがあります。肝臓がんは主に肝動脈経由の血液によって酸素や栄養が供給されています。
塞栓療法では、カテーテルを使って肝動脈から抗がん剤や塞栓物質を注入し、がんへ流れる血液を遮断します。
全身薬物療法

(参照:肝がんはどうやって治療する?|エーザイ株式会社、https://patients.eisai.jp/kanshikkan-support/know/livercancer-treatment.html)
肝臓以外の臓器にがんが転移した、門脈や胆管などに浸潤したなどの場合には、焼灼治療や塞栓治療や切除ができません。その場合、全身治療である薬物療法が用いられます。
かつて、肝臓がんの抗がん剤治療は有効な薬が非常に少なく、効果が得にくいものでした。最近では進行肝臓がんに対する分子標的薬や免疫療法の進歩が著しく、薬物療法も肝臓がん治療の選択肢の1つとなっています。
全身の薬物療法としては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が主流です。

(参照:⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎、https://dx-mice.jp/jsh_cms/files/info/1943/20250530_oshirase128-9.pdf P7)
初めて保険適用されたソラフェニブ(2009年)以降、レンバチニブや複数の免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が登場し、治療の選択肢が大幅に広がりました。2025年時点で一次治療として用いられる主な薬剤は、アテゾリズマブ+ベバシズマブ、トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブといった併用免疫療法のほか、レンバチニブ、ソラフェニブ、デュルバルマブなどが出てきています。
放射線治療・定位放射線治療(SBRT)

(参照:リニアック | 済生会熊本病院、https://sk-kumamoto.jp/cancer_care/radiotherapy/linac/)
これまで肝臓がんにはあまり用いられなかった放射線療法ですが、定位放射線治療(SBRT)の登場により放射線治療も用いられるようになりました。定位放射線治療(SBRT)により狙った場所へしっかりと放射線を照射し、完治を目的とした治療も可能になってきています。
焼灼治療が困難な部位に腫瘍があったり、高齢者や合併症がある患者さんにも適応しやすいのが強みです。一方で標準治療との比較結果が出ていないので、治療成績においては各施設により異なるのが課題です。
緩和ケア・支持療法
進行例や治癒が難しい場合には、苦痛の緩和を目的とした緩和ケアも治療として実施します。
- 鎮痛薬(オピオイドなど)の使用
- 腹水・黄疸・栄養管理などの身体的サポート
- 心理的なケアや家族への支援
緩和ケアは最終段階の治療というイメージを持たれがちですが、近年はがんと診断がついて早い段階から導入され、治療と並行しておこなうのが主流です。
治療中の負担や不快感を限りなく少なくし、高いQOLを維持しながら生活することを目的に実施します。
2025年最新・肝細胞がんにおける全身治療の進展と局所併用戦略
2025年、国立成育医療研究センター九州がんセンター肝胆膵科の杉本理恵氏らによる研究は、局所治療と全身療法の併用による肝細胞がん治療の可能性を報告しました※1
※1 MDPI journals、2025
Advances in Systemic Therapy for Hepatocellular Carcinoma and Future Prospects
https://www.mdpi.com/1718-7729/32/9/490
この論文では、「全身薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬+分子標的薬)によって腫瘍を縮小させ、局所治療(TACEやラジオ波焼灼など)を段階的に追加する方法により、再び切除の可能性を見出す戦略が注目されている」と解説されています。
かつて肝臓がんの治療は手術や局所療法が主流でしたが、近年では分子標的薬や免疫療法の登場によって治療選択肢が格段に広がっています。当初に承認された多重チロシンキナーゼ阻害剤(mTKI)のソラフェニブから始まり、レンバチニブなどのより有効性の高い薬剤が続き、その後、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法がソラフェニブを上回る有効性を示したことで、免疫併用療法が第一選択肢の1つとして定着しつつある時代になってきました。
複数の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法も、試験段階で期待できる結果が出ていて、デュルバルマブ+トレメリムマブの併用が有効性を示したという報告もあります。
また、切除不能例を対象とした症例に対しても、薬物療法のみならず局所療法との併用も視野に入れることで治癒的治療を目指す選択肢が拡大しつつあります。今後はどのタイミングで局所治療を組み合わせるか、肝機能をいかに保つかといった「治療の個別化」がより重視されていくと述べられた論文でした。
このような進歩は単なる延命にとどまらず、がんを制御し治す「治癒可能がん」への移行を目指す最新治療の潮流といえます。
まとめ
肝臓がんの治療は、患者さんの病状や肝機能に合わせて多様な選択肢が用意されており、時代とともに進化を続けています。従来の手術や局所治療に加え、免疫療法や分子標的薬による全身薬物療法が大きく進歩し、治癒を目指す新たな道筋が生まれつつあります。
なかでも、局所療法と薬物療法を組み合わせた戦略や、個別化された治療判断が今後のさらなる治療発展につながることも期待されています。自身の治療に納得し、前向きに選択するためにも、正しい知識を得て、主治医と相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
「中分子フコイダン」を用いた臨床結果の一例を紹介しています。どういった症状に効果があるか具体的に知りたい方は臨床ページをご覧ください。
>>「中分子フコイダン」を用いた臨床結果
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
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