2021.10.29
健康の科学胃がんの最大の原因ピロリ菌をチェックしましょう
胃がんは、日本において未だに死亡者数が多いがんで、最新の統計(1)によると、がん死亡数(男女計)は肺がん、大腸がんに次いで第3位です。
胃がんの最大の原因はヘリコバクターピロリ(以下、ピロリ菌)という細菌です。ピロリ菌とは、胃炎や胃潰瘍などの原因となる菌として1980年代に発見されました。その後の研究により、大部分の胃がんの原因がピロリ菌であることが判明しました。
今回は、ピロリ菌と胃がんの関係およびチェックの方法について解説します。
ピロリ菌感染と胃がんとの関係
胃がんの原因として、ピロリ菌の感染は確実視されています。ピロリ菌は、胃粘膜を傷つけるアンモニア、活性酸素、および様々な毒素を作ることがわかっています。したがってピロリ菌に感染すると、胃に慢性的な炎症がおこります。炎症によって、胃の粘膜が破壊されたり、修復されたりを繰り返す過程で、遺伝子に傷のついたがん細胞が生まれやすくなると考えられています。
とくに胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎という状態になると、胃がんになりやすいことがわかっています。ただ、ピロリ菌に感染していても、全員が胃がんを発症するわけではありません。1500人以上の日本人を対象として、ピロリ菌感染と胃がん発生率との関係についておよそ8年間追跡調査した研究が報告されています(2)。結果は、ピロリ菌陰性であった280人には胃がんはまったく発生しませんでしたが、ピロリ菌陽性であった人(1246人)のうち36人(約3%)に胃がんが発生したということです。
ピロリ菌の感染経路はまだはっきり解明されていませんが、幼少時に汚染された水(井戸水など)や食べ物、あるいは唾液から感染する可能性が指摘されています。日本は先進国の中でもピロリ菌の感染率が特に高いことで知られていますが、衛生環境の改善などにより減少傾向にあります(3)。
とはいえ、胃がんの最大の原因である以上、ピロリ菌の検査と、陽性者における除菌治療は胃がん予防のうえでとても重要です。
まずはピロリ菌の検査を受けましょう
まずは、お近くの医療機関(内視鏡検査ができる消化器内科が望ましい)でピロリ菌の検査を受けましょう。
ピロリ菌が感染しているかどうかを調べる検査には、内視鏡検査で直接胃の粘膜を採取する方法以外にも、簡単な尿素呼気試験法(吐いた息で検査)や血液、尿、便の抗体・抗原検査などがあります。
ピロリ菌の検査法
- 「迅速ウレアーゼ試験」…ピロリ菌が有するウレアーゼ活性を利用して、発生した尿素を測定して調べる
- 「鏡検法」…採取した胃の粘膜を染色し、顕微鏡でピロリ菌を探す
- 「培養法」…採取した胃の粘膜を培養してピロリ菌を見つける
- 「抗体測定」…ピロリ菌に対する抗体があるか血液や尿の検査から調べる
- 「尿素呼気試験」…診断薬を服用する前後の呼気を集めてピロリ菌を見つける
- 「糞便中抗原測定」…糞便中からピロリ菌の抗原を見つける
最近では自宅で簡単に検査できるキットも販売されていますので、忙しい人でも病院に行かずにピロリ菌感染の有無を調べることができます。
ピロリ菌が陽性だった場合
もし、ピロリ菌が陽性だった場合、必ず除菌治療を受けましょう。除菌によって胃がんのリスクを減らすことができます。
これまでの研究データによると、ピロリ菌を除菌することにより、胃がんにかかるリスクをおよそ30~50%減らせることが報告されています(4,5)。
除菌治療では、一般的には胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と、抗菌薬2種類の合計3剤を、1日2回、7日間服用します。4週間以上経過してから、再度ピロリ菌の検査(除菌できたかどうかの検査)を受けます。1回目の除菌療法がうまくいかなかった場合、抗菌剤の種類を変えて、再び除菌療法を行います(二次除菌療法)。一次除菌療法で除菌ができなかった場合でも、二次除菌療法をきちんと行えば、ほとんどの人で除菌が成功するといわれています。
ピロリ菌が陰性だったら?
たとえピロリ菌検査が陰性だったとしても、安心はできません。過去にピロリ菌の感染があり、たまたま抗菌剤を飲んで偶然に除菌されたり、胃粘膜の萎縮がすすんで自然に消えたりする可能性もあります。このような場合には、やはり胃がんになるリスクがあります(とくに自然消失の場合にはリスクが高いと言われています)。したがって、ピロリ菌検査が陰性であったとしても、一度は胃カメラ検査を受けて胃炎のチェックをしておくことをおすすめします。
ピロリ菌を除菌したら大丈夫?
「ピロリ菌を除菌したら、もう胃がんにはならない」と思っている人がいるかもしれませんが、そうではありません。たとえピロリ菌を除菌しても、胃がんになる可能性は残ります(6)。とくに、除菌をした時点で、ある程度胃炎がすすんでいた人は、胃がんのリスクが高いといわれています。ピロリ菌を除菌しても安心せず、定期的に胃カメラ検査を受けましょう。
まとめ
胃がんの最大の原因はピロリ菌です。胃がんを予防するうえで、まずはピロリ菌の検査を受けることが重要です。ピロリ菌が陽性の場合、除菌治療を受けましょう。陰性でも、一度は胃カメラ検査で胃炎をチェックすることをおすすめします。
また、もずくやめかぶ、昆布に含まれる「フコイダン」という成分には抗ピロリ菌作用、抗がん作用があることが報告されています。
ピロリ菌感染、胃がん予防に積極的に食事に取り入れてみてくださいね。
(1)がんの統計2021(https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2021.pdf)
(2)Uemura N, et al. Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer. N Engl J Med 2001,345:784-789.
(3)Wang C, et al. Changing trends in the prevalence of H. pylori infection in Japan (1908-2003): a systematic review and meta-regression analysis of 170,752 individuals. Sci Rep 2017,7:15491.
(4)Ford AC, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2014,348:g3174.
(5)Lee YC, et al. Association Between Helicobacter pylori Eradication and Gastric Cancer Incidence: A Systematic Review and Meta-analysis. Gastroenterology 2016,150:1113-1124 e1115.
(6)Mori G, et al. Incidence of and risk factors for metachronous gastric cancer after endoscopic resection and successful Helicobacter pylori eradication: results of a large-scale, multicenter cohort study in Japan. Gastric Cancer 2016, 19:911-918.
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