2024.04.04
がんすい臓がんはなぜ進行が速い?見逃さないために知っておきたい知識と対策

すい臓がんは「発見が遅れやすく、進行が非常に速い」ことで知られる、予後不良ながんの一つです。早期にはほとんど自覚症状がなく、見つかったときにはすでに手術が難しい段階に進んでいるケースも少なくありません。
しかし、なぜすい臓がんはここまで発見が難しく、進行が速いのでしょうか。この記事では、すい臓がんの進行スピードが速い理由や、見逃さないために知っておくべきサイン、発症リスクを下げるための生活習慣、治療に関する基本的な知識までを解説します。
目次
すい臓がんの進行スピードが速い理由と年代別の特徴
すい臓がんは「進行が速いがん」として知られています。解剖学的な位置関係から発見されたときには進行している例も少なくありません。また、すい臓には血管やリンパ管が密集しており、がん細胞が血流やリンパの流れに乗って転移しやすい環境にあります。実際に、診断された時点ですでに他の臓器へ転移しているケースは多く見られます。
さらに、すい臓がんは初期症状が乏しく発見時には進行していることが多いことも、 “進行しやすいがん“ と思われる理由となっています。
また、10代から70代以降までの年代別に見られる進行スピードの傾向や特徴について解説します。あくまでがんの進行速度はがんの種類によって決まるため、年代別の傾向についてはあくまで参考までにご覧ください。
10代
10代でのすい臓がん発症は極めてまれですが、発症した場合には自覚症状が出にくいため、発見が大幅に遅れる傾向があります。若年者のがん全般に共通して、進行が速く、治療が難航しやすいとされています。
20代
20代も発症率は低い年代ですが、診断時にはすでに進行しているケースが多く、腹痛や体重減少などがある場合は、他の病気と合わせて鑑別診断が重要です。
30代
30代になると、遺伝的要因や慢性膵炎などが関与する発症例も見られはじめます。診断時には進行期で見つかり、転移していることも多いため、家族歴がある方は特に注意が必要です。
40代
40代では、疲労感や腹部不調などを年齢や生活習慣の症状と自己判断で混同してしまう例もあります。その結果、がんがある程度進行してから発見されることが少なくありません。
50代
50代は糖尿病や慢性膵炎などの疾患が発症の引き金になることも増えはじめ、この年代からすい臓がんのリスクが上昇します。早期発見のためには既往症のある方の定期検査が重要です。
60代
60代はすい臓がんの発症数が多い年代です。体力の衰えにより自覚症状を感じにくく、進行がんとして診断されるケースも多いのが特徴です。
70代以降
70代以降では、高齢による体力の低下や他疾患との合併が進行の見落とし要因になります。発見時には手術が困難なことも多く、緩和ケア中心の治療選択となるケースも少なくありません。
すい臓の位置とがん発見の難しさ
参考:https://www.msdoncology.jp/pancreatic-cancer/about/
すい臓がんが「沈黙のがん」と呼ばれる最大の理由は、発見の難しさにあります。その背景には、すい臓という臓器の特殊な位置と構造が深く関係しています。
すい臓は胃のうしろ側、体の深部・背中寄りに位置する臓器です。長さ約15cmほどの細長い形をしていて、胃、十二指腸、胆管、脊柱、血管などに囲まれるように存在しています。すい臓は解剖学的な位置関係から、外側から観察しにくい場所にあるため、触診や一般的な腹部超音波検査(エコー)では詳細な異常を捉えることが難しいです。
また、がんができやすい膵臓の「頭部」は胆管や十二指腸と隣接しています。そのため、がんがある程度大きくなり、これらの器官を圧迫するまで目立った症状が出ないこともあり、異常を感じた時点ではすでに進行しているケースも見られます。
さらに、健康診断でよく使われる血液検査や胸部レントゲンでは、すい臓のがんを早期に見つけることは難しいです。
現在、早期発見の鍵として注目されているのは、高リスク者に対する定期的な画像検査(造影CTやMRI、EUSなど)です。糖尿病の急激な悪化や膵嚢胞のある人、家族歴がある人などは意識的に検診を受けることも重要です。
膵がん取扱い規約における「切除可能性分類」
膵臓がんの治療方針を決める際、重要な判断基準となるのが「切除可能性分類」です。これは、日本膵臓学会がまとめた『膵がん取扱い規約(第7版)』に基づいていて、がんの広がり具合や転移の有無に応じて、手術が可能かどうかを3つのカテゴリーに分けています。
①「切除可能(R: Resectable)」:がんが膵臓に限局し、主要な血管への浸潤や遠隔転移がない状態
②「切除境界(BR: Borderline Resectable)」:血管への浸潤が一部認められるが、治療によって切除できる可能性が残されている状態
③「切除不能(UR: Unresectable)」:遠隔転移や血管への高度な浸潤がある場合で、手術が現実的ではないと判断される段階
この分類は、CTやMRIなどの画像診断による血管や周囲臓器への浸潤の評価などを参照におこなわれます。正確な分類により、手術・化学療法・放射線治療の選択の指標とします。
切除可能(R) | 主要血管への浸潤なし。遠隔転移なし |
切除境界(BR) – 血管浸潤型(BR-PV) | 門脈(PV)または上腸間膜静脈(SMV)への接触が180度未満。 |
切除境界(BR) – 動脈浸潤型(BR-A) | 上腸間膜動脈(SMA)または腹腔動脈(CA)への接触が180度未満。切除は慎重に判断。 |
切除不能(UR) – 局所進行(UR-LA) | 血管への接触が180度以上で切除困難。周囲臓器への高度浸潤あり。 |
切除不能(UR) – 遠隔転移(UR-M) | 肝臓、肺、腹膜などへの遠隔転移が存在する状態。 |
すい臓がんの5大リスク因子
すい臓がんは、誰にでも起こりうる病気ではありますが、発症の背景にはいくつかの「リスク因子」が関与していることがわかっています。中でも注目されているのが、遺伝的な要因や家族歴、糖尿病や膵臓の疾患、肥満、喫煙・飲酒などの生活習慣です。
リスク因子を知っておくことは、発症リスクを下げるための予防対策につながります。ここでは、すい臓がんの発症に影響を及ぼすとされる代表的な5つのリスク要因について解説します。
遺伝性
すい臓がんには遺伝的な要素が関与すると考えられています。遺伝性すい臓がん症候群は、特定の遺伝子により家族内ですい臓がんが多発する症候群です。最近の研究では、BRCA2、PALB2、ATMなどのがん抑制遺伝子の変異がすい臓がんのリスク上昇と関係していることが明らかになっています。
家族歴
家族歴は、親子や兄弟・姉妹における膵臓がん患者数1人で発生リスクが4.5倍、2人で6.4倍 、3人で32倍とされています。 一度近親者に2人以上のすい臓がん患者がいる場合、家族性すい臓がん家系として、日本膵臓学会により登録制度が設けられており、調査研究が進められています。
糖尿病、すい臓疾患
生活習慣病の一つとして、糖尿病もすい臓がんの発生リスクを高めるとされています。特に2型糖尿病は、インスリン抵抗性の影響などにより膵臓への負担が増し、がん化の一因になる可能性があります。
また、すい臓疾患もすい臓がんの発生リスクを高めることがわかっています。特に慢性膵炎はその発生リスクはなんと11~13倍、すい嚢胞はすい臓がんの発生リスクは約3倍とされています。慢性膵炎のように膵臓が長期にわたり炎症を起こす疾患もがんのリスクを高めるとされています。
肥満
肥満も膵臓がん発生リスクを高めることがわかっています。BMI35以上で男性の場合は約1.5倍、女性の場合は2倍という結果が出ています。高脂肪食や肉類中心の食生活、野菜や果物の摂取不足もすい臓がんとの関連が報告されています。脂肪分を消化するための消化酵素である「リパーゼ」が膵臓から分泌されるため、すい臓に負担がかかる要因とされています。
喫煙・飲酒
喫煙も すい臓がんの発症リスクを高めることがわかっています。1日の喫煙本数や喫煙歴が増えるに従い、そのリスクは上昇します。糖尿病や肥満など他の危険が加わるとさらにリスクは上昇します。
飲酒は1日のエタノール換算量として 37.5g 以上の場合発生リスクは1.2倍以上です。
すい臓がんの症状
すい臓がんは、早期の段階ではほとんど自覚症状が現れないため、「沈黙のがん」とも呼ばれています。そのため、気づいたときにはすでに進行しているケースも少なくありません。ここでは、すい臓がんの初期に見られる可能性のある症状から、進行にともなって現れる特徴的なサインまで、段階別に解説します。
すい臓がんの初期症状
すい臓がんは、初期にはほとんど症状が現れないことが多く、「沈黙のがん」とも呼ばれています。すい臓は体の奥深くにあり、周囲の臓器を圧迫するまで腫瘍が大きくならないと自覚症状が出にくいことが主な理由です。また、仮に何らかの症状が現れたとしてもすい臓がん特有の症状ではないため、見過ごされてしまうことも少なくありません。
すい臓がんの進行症状
症状が現れる頃には、すでに進行しているケースも少なくありません。進行したすい臓がんでは、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、背中や腹部の持続的な痛み、急激な体重減少などが見られることがあります。特に膵頭部にできたがんは胆管を圧迫しやすいため、黄疸が出やすい傾向にあります。
また、糖尿病の急な悪化や、新たな糖尿病の発症がすい臓がんのサインとなることもあります。中高年で糖尿病が急に悪化した場合は、がんの可能性を考慮した検査が重要です。
早期のすい臓がんについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
>>膵臓がんステージ1の症状は?原因や検査方法を解説!
すい臓がんを防ぐには?予防につながる生活習慣
すい臓がんは早期発見が難しく、発見時にはすでに進行していることも少なくありません。そのため、日頃の生活習慣を整えて、発症リスクを下げることも重要な対策となります。ここでは予防につながる具体的なポイントを4つに分けて紹介します。
喫煙を控える
喫煙は、すい臓がんの発症リスクをもっとも高める生活習慣のひとつです。たばこを吸う人は、吸わない人と比べて有意にすい臓がんのリスクが上昇します。喫煙は細胞分裂の際のDNA転写に悪影響を及ぼしやすいだけではなく、細胞に慢性的な炎症を引き起こし、がん化のリスクを高めるため、すい臓がん予防には禁煙が不可欠です。
適正体重の維持と食生活の見直し
肥満や内臓脂肪の増加は、糖尿病や慢性膵炎の原因となり、結果的にすい臓がんのリスクを上昇させます。バランスのよい食生活を心がけ、脂質・糖質の多い食事を控えることが重要です。また、肉類中心の食事ではなく、野菜・果物・魚などを適度に取り入れることも意識しましょう。
アルコールの過剰摂取に注意
長年にわたる過剰なアルコール摂取は、膵臓に慢性的なダメージを与えます。慢性膵炎を引き起こすレベルの飲酒は、すい臓がんの危険因子となります。すい臓の健康を守るためには、節度ある飲酒を心がけましょう。可能であれば、休肝日を設ける習慣も取り入れたいです。
定期的な健診で早期発見につなげる
すい臓がんは早期発見が難しいがんですが、糖尿病や慢性膵炎の既往がある人、家族歴のある人は特に注意が必要です。家族歴としてのリスク因子のある方は、年1回の画像検査(CTやMRI、内視鏡的超音波検査など)を検討しましょう。がんを小さいうちに見つけるためには、健診によるスクリーニングが効果的です。
すい臓がんの治療法
参考:https://gan-senshiniryo.jp/cancer/pancreatic-cancer/cancer_358
すい臓がんの治療は、がんの進行度(ステージ)や切除の可否によって選択肢が大きく変わります。主な治療法には手術・化学療法・放射線療法があり、これらを組み合わせた「集学的治療」もおこなわれます。
手術(切除可能例)
参考:https://www.med.kindai.ac.jp/diseases/pancreatic_cancer_2.html
がんを取りきれると判断された場合には、外科的切除(手術)が第一選択となります。すい臓の部位によって、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術などが選ばれます。手術後は、再発予防のために補助化学療法がおこなわれるのが一般的です。
化学療法(抗がん剤治療)
参考:https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/pancreas/006.html
すい臓がんは薬が効きにくいがんとされてきましたが、近年は効果的なレジメンも登場しています。代表的なものにFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)や、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルの併用療法などがあります。
フコイダン療法
すい臓がんは進行が早く、治療の選択肢も限られることがあるため、補完的な療法として「フコイダン療法」に注目が集まっています。フコイダンは海藻由来の成分で、免疫力の向上やアポトーシス(がん細胞の自然死)の誘導作用が期待されており、抗がん剤治療や放射線治療と併用されることもあります。標準治療を基本としながら、生活の質(QOL)を重視したい方にとって、補助的な選択肢の一つとなり得るでしょう。
以下記事では、長年にわたりがん治療に携わってきた医師が、これまでの臨床経験や科学的知見に基づく仮説をもとに、フコイダンががんにどのように作用するのか、そしてなぜ治療の選択肢として期待されるのかを分かりやすく解説しています。詳しくはこちらをご確認ください。
>>なぜ、フコイダンはがんに効くのか?
放射線療法と集学的治療
切除が難しい「切除境界例」では、抗がん剤と放射線を組み合わせる集学的治療が検討されることがあります。腫瘍を小さくしてから切除をめざす「術前化学放射線療法」や、がんの進行を抑える目的でおこなうこともあります。
緩和ケア
すい臓がんは進行が速く、早期発見が難しいため、初診時に切除不能と診断されるケースも少なくありません。そのような場合でも、痛みのコントロールや消化機能の維持など、生活の質(QOL)を保つための緩和ケアが重要です。がん治療と並行して早い段階から取り入れることも少なくありません。
すい臓がんのステージ分類や切除可能性分類について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
>>膵臓がんステージ2・3の治療法は?原因や余命について解説!
まとめ
すい臓がんは、進行スピードが速く、自覚症状が乏しいまま進むことが多いため、「気づいたときには手遅れ」というケースも少なくありません。だからこそ、早期発見に向けた行動と意識が命を守るカギになるでしょう。
「症状が出たらすでに進行しているかもしれない」という前提で、定期的な健診や生活習慣の見直しを怠らないことが重要です。特に糖尿病や慢性膵炎、家族歴のある方は、注意深く体調の変化を観察していきましょう。
少しでも不安を感じたら、我慢せずにすぐに専門医へ相談することが、早期発見と治療への第一歩です。
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
「中分子フコイダン」を用いた臨床結果の一例を紹介しています。どういった症状に効果があるか具体的に知りたい方は臨床ページをご覧ください。
>>「中分子フコイダン」を用いた臨床結果
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
がんの種類を知る
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