2025.04.28
がん【医師解説】膵臓がんで「手術しない方がいい」といわれるのはどんな時?
膵臓がんは、早期発見が難しく、診断時にはすでに進行していることが多い病気です。「手術しない方がいい」といわれると、戸惑いや不安を感じる方も少なくないでしょう。しかし、手術をしないのは決して治療をあきらめるという意味ではなく、患者さん一人ひとりに適した治療法が慎重に選ばれた結果です。
この記事では、「膵臓がんで手術しない方がいい」と判断されるケースや、代替となる治療法についてわかりやすく解説していきます。
目次
「手術しない方がいい」と判断されるケース
膵臓がんは手術によって根治を目指すことが基本ですが、すべての患者さんが手術を受けられるわけではありません。年齢や体力、がんの進行度、血管や臓器への浸潤の有無など、患者さん自身の希望や生活の質(QOL)といった多くの要因を総合的に考慮し、手術以外の選択が最適と判断される場合もあります。ここでは、具体的に「手術しない方がいい」とされる主なケースについて解説します。
高齢や体力の問題で手術に耐えられないと判断された場合
膵臓がんの手術は、一般的に身体への負担が大きく、手術時間も長くなります。高齢者や、心臓や肺に持病がある場合には合併症のリスクが高まり「手術しない方がいい」と判断されることもあります。
遠隔転移がある「切除不能がん」の場合
がんが膵臓を超えて、肝臓・肺・腹膜などに転移している場合は「切除不能」とされ、手術では根治が見込めません。切除不能がんの場合は、全身に作用する抗がん剤治療や症状のコントロールを目的とした緩和治療を中心に治療をすすめます。
血管への浸潤が強く手術が難しい場合
がんが主要な血管(上腸間膜動脈、門脈など)に深く浸潤している場合には、切除が困難と判断されることがあります。無理に手術をおこなえば、重篤な合併症や命にかかわるリスクがあるため他の治療が優先されます。
患者本人の希望やQOLを重視する場合
膵臓がんの治療において、必ずしも手術を選ぶことが最善とは限りません。患者さんのなかには、「できるだけ日常生活を大切にしたい」「体への負担を避けたい」と考える方もいます。患者さんの自身の希望があれば化学療法や放射線治療、緩和ケアなど手術以外の方法を選択することもあります。
「切除可能」「切除不能」「ボーダーライン」の違い

膵臓がんでは画像診断などによりがんの広がりを評価し、手術の可・不可による治療方針を3つに分類します。
切除可能がん
膵臓の局所にとどまっており、主要血管への浸潤や遠隔転移がない状態です。外科的切除による根治が可能とされ、手術を原則的な治療方針とします。
切除不能がん
すでに肝臓や肺、腹膜への転移が認められるケースや、主要血管への高度な浸潤がある場合は切除不能とされます。手術による根治は難しく、化学療法や放射線治療、緩和ケアが中心です。
ボーダーライン膵がん(切除可能境界)
切除可能境界とは、明らかな遠隔転移は認めないものの、膵臓がんが周囲の主要な血管に接していたり、手術で切除したとしても顕微鏡で調べると、がんが体内に残っている可能性が高い状態を指します。手術の前後に化学療法などを取り入れ、目に見えないがん細胞を叩く治療を併用することも少なくありません。
膵臓がんの切除の可否についてはこちらの記事も参考にしてください。
>>膵臓がんはなぜ進行が速い?見逃さないために知っておきたい知識と対策
膵臓がんの手術と術式

(参照:膵がんの手術│近畿大学病院、https://www.med.kindai.ac.jp/diseases/pancreatic_cancer_2.html)
膵臓がんの手術は、がんの発生部位(膵頭部・体部・尾部)によって術式が異なります。ここでは、代表的な術式について解説します。
膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)
膵頭部にがんがある場合におこなわれるのが「膵頭十二指腸切除術」です。がんのある膵頭部だけでなく、その周囲の臓器も一体的に切除します。一般的には胃の一部から十二指腸、胆のうと下部胆管、膵臓の頭側1/3〜1/2程度を周辺のリンパ節とともに切除します。腫瘍部分と周辺組織を切除したあと、消化管をあらためてつなぎ合わせる吻合操作もおこないます。
膵体尾部切除術
がんが膵体部~尾部にある場合におこなわれるのが「膵体尾部切除術」です。膵頭部が温存されるため、消化管の再建の必要がありません。病状によっては脾臓につながる血管や周辺リンパ節を切除することもあります。
膵全摘術
がんが膵臓全体に広がっているときにおこなう方法で、膵臓全体と胃の一部と胆のう、下部胆管、周辺のリンパ節も合わせて切除します。
手術できない場合の治療法と選択肢

ここからは、膵臓がんのおもな治療法について解説します。「手術しない方がいい」と判断された場合でも、近年ではさまざまな治療法が取り入れられています。膵臓がんの症状の緩和や治癒を期待できる治療も選択できるようになりました。
化学療法(抗がん剤治療)
膵臓がんの抗がん剤治療として、FOLFIRINOXやゲムシタビン+ナブパクリタキセルなどの治療法が用いられています。進行がんの延命や症状の緩和に加え、ボーダーライン膵がんでは術前治療としても活用されることがあります。
放射線治療
近年ではがんが局所にとどまる場合には、定位放射線治療(SBRT)なども用いられます。患部に高精度で放射線を照射できるので、かつての放射線治療に比べると非常に治療成績がよくなりました。遠隔転移がなく血管への浸潤があり手術が難しい症例で、局所治療を狙う目的で活用されています。
緩和ケア
がんによる痛みや消化器症状、全身倦怠感などを和らげ、患者さんの生活の質を維持するためのケアです。緩和ケアは「末期の選択肢」と誤解されがちですが、診断直後から併用することで精神的な安心感やQOLの向上につながります。膵臓がんに限らず、近年ではがんと診断された直後から活用されています。
フコイダン療法
海藻由来の多糖体であるフコイダンは、がん細胞の増殖抑制・アポトーシス誘導・免疫力の強化などが期待できる成分です。食品由来の成分で患者さんへの負担がほぼないため、近年では標準治療と併用する形で取り入れる患者さんも増えています。
フコイダンとがん治療についてはこちらの記事も参考にしてください。
>>なぜ、フコイダンはがんに効くのか?
遺伝子医療・ゲノム医療
膵臓がんにもゲノム解析が取り入れられ、BRCA遺伝子変異を有するケースではPARP阻害薬などの分子標的治療が適応されるようになりました。専門機関での検査が可能で、保険適用となる症例もあります。
膵臓がんの治療について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>膵臓がんステージ2・3の治療法は?原因や余命について解説!
膵臓がんは「完治」できるのか?
膵臓がんは進行が早く、完治を目指せるのは早期の段階で発見されたごく一部のケースに限られます。実際に、診断時にはすでに進行していることも少なくないため「根治」よりも「生活の質をどう守るか」に重点を置いた治療が選ばれることもあります。抗がん剤や放射線治療による延命を図ると同時に、痛みや日常生活への負担を軽減し、患者さんが自分らしく過ごせる時間を大切にする治療方針となることもあるのです。
完治ばかりにとらわれず、自分らしく快適に生きることを考えてみるのもよいでしょう。ストレスや不安をできるだけ取り除いた状態で過ごすことが、私たちの体内にあるもともとがんと戦うための「免疫力」の活性化につながります。
負担なく、元気に過ごすことが思わぬところで完治への足がかりになることもあるのです。
膵臓がんについて、以下の記事も参考にしてみてください。
>>膵臓がんステージ2・3の治療法は?原因や余命について解説!
>>膵臓がんステージ4の治療方法は?症状や余命について解説!
まとめ
膵臓がんで「手術しない方がいい」と判断されるのは、決して希望を奪うためではありません。高齢や持病、がんの進行度、血管浸潤、患者さん自身の価値観など、さまざまな要素を踏まえたうえで、安全で適切な治療方針を選ぶための判断です。
手術ができない場合でも、化学療法・放射線治療・緩和ケア・補完医療・ゲノム医療など、治療の選択肢は広がっています。重要なのは「完治を目指すかどうか」だけではなく、「どう生活していきたいか」という患者さん自身の思いです。
医師と十分に相談し、自分や家族にとって納得できる治療を選択することが、結果的に生活の質を守り前向きにがんと向き合う力になります。
「手術できない」と悲観的になるのではなく「どう生きていくのか」という根本に目を向けて選択肢を検討したいものですね。
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
「中分子フコイダン」を用いた臨床結果の一例を紹介しています。どういった症状に効果があるか具体的に知りたい方は臨床ページをご覧ください。
>>「中分子フコイダン」を用いた臨床結果
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
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