2025.01.29
がん肺がんの抗がん剤治療とは?副作用や治療費まで知っておきたい基礎知識

抗がん剤治療と聞くと「副作用がつらい」「治療が長引く」「生活に支障が出そう」といった不安を感じる方もいるのではないでしょうか。
しかし、近年の肺がん治療では、がんの性質や遺伝子情報に合わせて薬を選ぶ「個別化治療」が進んでおり、従来の抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新たな選択肢も広がっています。
この記事では、肺がんに対する抗がん剤治療の基本から、薬の種類ごとの特徴、副作用の出やすい時期、治療スケジュール、さらには治療費の負担を軽減する制度まで、知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
目次
肺がんの薬物療法
薬物療法とは、がん細胞に作用する薬を使って治療する方法全般を指しています。中でも抗がん剤治療は、がんの増殖を抑えたり、がん細胞を直接攻撃したりすることを目的とした、代表的な薬物療法です。
また近年では、がん細胞の性質に合わせた「分子標的薬」や、免疫の力を活用する「免疫チェックポイント阻害薬」といった新しいタイプの薬も登場し、薬物療法の幅が広がっています。
進行度や体の状態に応じて、治療方法が選ばれる
薬物療法は、がんの進行の程度(ステージ)、がんのタイプや、患者さんの年齢・体力・持病などを総合的に判断して選ばれます。
例えば、がんが局所にとどまっている場合と、遠くの臓器に転移している場合とでは治療の目的や使う薬が異なります。また、強い薬を使用する際には、体への負担も考慮する必要があります。
手術や放射線療法と組み合わせることもある
薬物療法は、手術と併用して使われることもあります。
たとえば、手術の前に抗がん剤でがんを小さくしておく「術前化学療法」、手術後に目に見えないがん細胞の再発を防ぐための「術後補助化学療法」などがおこなわれます。
また、放射線治療と同時に薬を使う「化学放射線療法」もあります。これは特に、小細胞がんの限局型(局所にとどまる)などで有効とされており、がんの制御率を高める目的で使われます。
>>「小細胞肺がん」とは? 進行が早いがんの特徴・症状・治療・予後までを解説
肺がん治療に使われる3つの薬
肺がんの薬物療法には、目的やがんのタイプに応じてさまざまな薬が使われます。ここでは、主に用いられる「抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の3種類の薬について解説します。
① 抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)
抗がん剤とは、細胞分裂の盛んながん細胞を攻撃する薬です。がん細胞の増殖を妨げたり、細胞を死滅させたりすることで、がんの進行を抑える効果があります。
しかし、抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞の中でも分裂の盛んな細胞(髪の毛・血液・消化管の粘膜など)にも作用してしまうため、副作用が出やすい特徴があります。
吐き気・嘔吐、脱毛、骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板が減少し、感染症や貧血、出血傾向)などはよくある抗がん剤の副作用です。
② 分子標的薬
参考:https://oshiete-gan.jp/lung/cancer-test/method/inspection.html
分子標的薬は、がん細胞に特有の分子などをピンポイントで狙い撃ちする薬です。正常な細胞への影響が少ないため、抗がん剤と比べて副作用が少ないケースもあります。
この薬は、がん細胞の表面や内部にある「特定のタンパク質」や「遺伝子の変異」を標的にしています。そのため、治療前にはがん細胞の性質を調べる検査(遺伝子検査)が必要です。
【代表的な遺伝子変異】
肺がんでは以下のような遺伝子変異が分子標的薬の対象になります。
- EGFR遺伝子変異:特定の非小細胞肺がんに多く見られ、EGFR阻害薬が有効です。
- ALK融合遺伝子:比較的若い非喫煙者に多く、ALK阻害薬が使われます。
- ROS1、BRAF、METなど:それぞれに対応する薬が開発されています。
抗がん剤と比較すると穏やかですが、分子標的薬にも副作用はあります。肺がんに用いられる分子標的薬の副作用に代表的なものは皮膚の発疹やかゆみなどに代表される「皮膚障害」です。そのほか、肝機能障害や間質性肺炎などを引き起こすこともあります。
③ 免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がんによってブレーキがかけられてしまった免疫の働きを回復させる薬です。がん細胞を直接攻撃するのではなく、体の免疫力本来の力を回復させがんと闘うという新しいタイプの治療です。
免疫チェックポイントとは 免疫が強くなりすぎて自己免疫疾患や アレルギーにならないように免疫細胞が自ら免疫を抑制する仕組みのことを指しています。代表的な免疫チェックポイントは免疫細胞の表面の「PD-1」というタンパク質とがん細胞表面の「PD-L1」というタンパク質が結合することでがん細胞への攻撃が弱まります。
そこでPD-1とPD-L1が結合しないようにして がん細胞に対する免疫の攻撃力を高めるのが 免疫チェックポイント阻害薬です。肺がんで使用される代表的な免疫チェックポイント阻害薬には、以下の 種類が代表的です。
- キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)
- オプジーボ(一般名:ニボルマブ)
これらの薬は、単独で使用されることもあれば、抗がん剤と併用されることもあります。
【免疫チェックポイント阻害薬の副作用】
免疫が過剰に反応することで、正常な臓器にも炎症が起こる副作用が見られることがあります。今まで抑えられていた 免疫機能が強く反応することにより起こるため「免疫関連有害事象めんえきかんれんゆうがいじしょう(irAEアイアールエーイー)」 と呼ばれています。代表的な 副作用には以下のようなものがあります。
- 間質性肺炎(肺に炎症が起きる)
- 肝機能障害、腎機能障害
- 甲状腺の機能異常(疲れやすさ、体重変化など)
- 消化器系の炎症症状
薬物療法について詳しく知りたい場合にはこちらの記事も参考にしてください。
>>抗がん剤の種類について(細胞障害性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬)
>>抗がん剤の副作用について
抗がん剤治療の副作用はいつ出るのか
参考:https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/Q41.html
薬物療法の副作用は、「薬を投与したその日」にすぐ現れるものもあれば、「数日~数週間たってから」出てくるものもあります。副作用の種類や出方には個人差がありますが、あらかじめ発現時期の目安を知っておくことで、落ち着いて対応することができるでしょう。
初回投与後すぐ出るものと、数日〜数週間後に現れるもの
- すぐに出やすい副作用
- 数日後に出る副作用
- 1~3週間後に出る副作用
吐き気や発熱、アレルギー反応などは、薬の投与当日から翌日にかけて現れることがあります。これらは「急性副作用」と呼ばれていて、吐き気止め等をあらかじめ内服しておくことで対策をします。
食欲低下、口内炎、便秘・下痢、だるさなどは数日〜1週間以内に見られやすいです。下痢止めや下剤等で対策をします。
血球減少や皮膚のトラブル、脱毛、自己免疫による炎症(肺炎・肝炎など)は、投与から1〜3週間後に出ることが多く、注意が必要です。免疫力の低下は治療に影響を及ぼすこともあるため、白血球数を向上させる薬剤を用いることもあります。
血球減少や感染症リスクなどは1週間前後がピーク
抗がん剤による副作用の中でも、白血球や赤血球、血小板が減る「骨髄抑制」は治療の進め方やQOLにも影響する重要な副作用のひとつです。
これらの血球は、投与後5〜14日頃に最も減少し、感染症や貧血、出血のリスクが高まる時期となります。白血球が少ない時期に風邪などを引くと、重症化しやすいため注意が必要です。
この時期には以下のような症状がないか、特に気をつけて観察しましょう。
- 発熱(37.5℃以上)
- のどの痛み、咳、下痢
- 出血が止まりにくい
- ふらつき、極端な疲労感
フコイダン療法について
肺がんの抗がん剤治療と併行して、一部の患者が選択肢として検討するのが「フコイダン療法」です。フコイダンは海藻由来の成分で、免疫の活性化やがん細胞のアポトーシス誘導作用が報告されており、補完代替療法として注目されています。標準治療を基軸にしつつ、補助的にフコイダンを取り入れることで、QOL(生活の質)の向上を目指せるケースもあります。
以下記事では、長年にわたりがん治療に携わってきた医師が、これまでの臨床経験や科学的知見に基づく仮説をもとに、フコイダンががんにどのように作用するのか、そしてなぜ治療の選択肢として期待されるのかを分かりやすく解説しています。詳しくはこちらをご確認ください。
>>なぜ、フコイダンはがんに効くのか?
抗がん剤の投与スケジュール
抗がん剤治療は、一度の投与で終わるものではなく、一定の間隔で複数回くり返す治療です。がん細胞に効果を与えつつ、正常な細胞が回復する時間も確保するため、計画的なスケジュールで進められます。
抗がん剤治療の投与スケジュールは「レジメン」で設定されていて、肺がんのステージやタイプ・治療の目的によっていろいろな方法が設定されています。
参考:https://navi.towa-oncology.jp/regimen/cddpgem_basic.html
点滴による投与が主流
肺がん治療で使われる抗がん剤は、点滴による静脈注射で投与される方法が一般的です。投与には30分〜数時間かかることもあり、薬の種類や組み合わせによって時間は異なります。
一部の薬(分子標的薬など)は飲み薬で処方されることもありますが、抗がん剤は基本的に医療機関で管理しながら投与される治療法です。
治療→休薬の「1クール」を数回くり返す
抗がん剤治療は「クール」と呼ばれるサイクルでおこないます。たとえば、「3~4週間に1回の投与→2週間休薬→また投与」というように、治療と休薬を1つのセット(1クール)として、通常4~6クール前後くり返すことが多いです。
この「休薬期間」は、薬の副作用から体を回復させるために設けられており、治療効果と副作用のバランスをとる重要な時間です。
入院・外来の違い
近年、抗がん剤の投与は外来通院でおこなうケースも増えています。薬の副作用が比較的軽い場合や、短時間の点滴で済む場合は、日帰りの外来治療を進めることが可能です。
一方で、副作用のリスクが高い、体力が落ちている、複雑な薬の組み合わせが必要といった場合には、入院治療が選択されることもあります。医師が患者さんの体調や生活状況を踏まえて、治療環境を判断します。
副作用の回復期間も考慮してプランニング
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため、副作用が出た後の回復期間を見越してスケジュールが立てられます。たとえば、白血球が減る時期を避けて次の投与をとき、吐き気が落ち着く頃に再開するなど、体の状態にあわせた調整が必要です。
場合によっては、副作用が強く出たことで「予定していた日程を延期する」「投与量を減らす」といった変更が入ることもあります。決められた回数をすべて終えることが目的ではなく、無理なく続けることが大切です。
肺がんの抗がん剤治療を受けた際の入院期間の目安
抗がん剤治療を始めて投与するときには、入院して体調管理なども含めて治療を進めます。副作用に備えた観察や支持療法の実施が目的です。個人の体調や肺がんのステージ・タイプにより厳密には異なりますが、ここでは肺がんの化学療法における一般的な入院期間の目安について解説します。
初回導入時の入院(目安:2週間前後)
治療開始後は副作用の経過観察が必要なため、最初の1~2週間は入院が基本となります。吐き気や倦怠感などのリスクを確認しながら、安全に治療を進めるためです。副作用が軽度であれば早めに退院し、外来治療に移行することもあります。
定期コース以降の入院と外来の併用
初回が安定すれば、次回以降は外来化学療法へ移行可能なことが増えます。とはいえ、薬剤の種類や患者さんの体調により再び入院が必要となることもあります。
【標準治療とは】科学的根拠に基づいた最も効果的とされる治療法
「標準治療」とは、がんの治療において「科学的に有効性と安全性が証明されている“現在の最善の治療法”」のことです。肺がんの薬物療法においても、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などのうち、病状や遺伝子変異のタイプに応じて“最も効果が高いとされる治療法”が標準治療として位置づけられています。
この標準治療は、日本肺がん学会などが発行する「がん診療ガイドライン」や、多くの臨床試験の結果をもとに決定され、日々の医療現場でも広く実践されています。
肺がんにおける抗がん剤治療の目的
抗がん剤治療は、がんを小さくしたり、広がりを抑えたりするために用いられる薬物療法のひとつです。しかしその目的は「がんを消す」だけにとどまりません。肺がんの進行度や治療のタイミングに応じて、抗がん剤の役割は大きく3つに分けられます。
① 手術と併用して治療の効果を高める
抗がん剤は 外科手術と併用して治療効果を高めるために実施されるケースもあります。
手術後に目に見えないがん細胞をたたく
参考:https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2014/2/140002020100.html
非小細胞がんのステージ1.2.3Aでは、手術でがんを切除できれば根治を目指せます。 手術で取り除いたようにみえる悪性腫瘍ですが、目に見えないわずかながん細胞が転移していたり、再発のリスクにつながることもあります。
そこで再発・転移のリスクを減らすためにおこなわれているのが術後の薬物療法です。手術でがんを取り除いたあとでも、血液やリンパの中に目に見えない微小ながん細胞が残っている可能性があるため、抗がん剤を使って残されたがん細胞をたたくことが術後療法の目的です。
術後の薬物療法をおこなった場合、5年生存率の上昇も報告されています。
手術前に投与して治療の効果を高める
参考:https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2014/2/140002020100.html
近年、再発までの期間が延長できるという報告もあり、手術前に薬物療法を取り入れる治療もおこなわれています。 手術前の薬物療法では プラチナ製剤という種類の抗がん剤に免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、治癒の可能性を上げることを期待して実施されます。また一部の患者さんに対しては、合わせて放射線治療をおこなうことも検討します。
② 延命・症状の緩和
がんが進行していて手術や根治が難しい状態の場合でも、抗がん剤によってがんの進行を抑えたり、症状を軽くしたりすることを目的として治療をおこないます。これにより、患者さんがより長く、より快適に生活を続けられることを目指します。
例えば肺がんの場合、進行すると息苦しさ、咳、胸の痛み、骨転移による痛みなど、生活の質に大きな影響を与える症状が出てきます。抗がん剤は、こうしたつらい症状を軽くする「緩和的治療」としても実施されます。
抗がん剤治療にかかる費用対策
抗がん剤治療は、がん治療のなかでも比較的費用がかかりやすい治療のひとつです。しかし、日本では公的医療保険制度や高額療養費制度が整っており、経済的な負担を軽減する仕組みも用意されています。ここでは、日本国内で活用できる支援制度について解説します。
国民健康保険と自己負担額
2025年 現在、抗がん剤治療は、厚生労働省の承認を受けた薬であれば健康保険の対象となり、自己負担は通常3割です。 70から74歳で2割 75歳以上なら1割の自己負担額となっています。
高額療養費制度の活用
1ヶ月の自己負担金が上限額を超えた場合活用できるのが、「高額療養費制度」 です。この制度による上限は所得に応じて決まるため、収入が少ない方でも治療を受けやすくなっています。
その他の制度
その他に低所得者世帯や障害者世帯、高齢者世帯が活用できる生活福祉資金や国民健康保険以外の被保険者が病気療養のために3日以上欠勤した場合に活用できる傷病手当金、 1世帯で1年間の医療費が10万円を超える場合に活用できる医療費控除などの制度もあります。病院の相談窓口や医療ソーシャルワーカーなどが専門的な相談窓口になっているため、 制度が活用できるかどうか悩んだ場合には相談してみると良いでしょう。
まとめ
抗がん剤治療と聞くと、「副作用がつらい」「治療費が高い」「効果があるのかわからない」といった不安を感じる方も多いかもしれません。たしかに、がん治療は簡単なものではなく、人によって感じ方や受け止め方もさまざまです。
しかし、治療を「選ぶかどうか」ではなく、「どの治療が自分に合っているか」を判断するために、まずは正しい情報を知ることが大切です。そのうえで、自分自身が納得できる選択をすることが、後悔のない治療につながります。
患者さんと医師が一緒に話し合い、選びとっていく治療を進めるために治療の目的を理解したうえで、自分の希望や生活スタイルに合った治療法を選んでいきましょう。
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
「中分子フコイダン」を用いた臨床結果の一例を紹介しています。どういった症状に効果があるか具体的に知りたい方は臨床ページをご覧ください。
>>「中分子フコイダン」を用いた臨床結果
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
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