前立腺がんの余命・生存率とは?ステージ別の特徴と進行スピード・治療法を解説
前立腺がんは50歳以降の男性に多く見られるがんで、進行が比較的ゆるやかな傾向にあります。しかし、自覚症状に乏しいため、気付かないうちに進行してしまうことも少なくありません。早期発見できれば生存率は非常に高く、治療の選択肢も豊富です。
この記事では、前立腺がんの特徴や進行スピード、ステージごとの余命や生存率、転移の種類、治療法について解説します。
※大腸がんの概要については以下の記事を参考にしてください。
>>大腸がんとは?その症状について
目次
前立腺がんとは

(参照:前立腺とは?|前立腺がんについて|What’s? 前立腺がん、https://www.zenritsusen.jp/about/what/)
前立腺がんとは、男性特有の臓器である「前立腺」に発生する悪性腫瘍です。前立腺は膀胱の下側に位置し、尿道を取り囲むように存在しています。加齢とともに発生率が高まることから、50歳以降の男性に増えてくるがんの一つです。
近年では食生活の欧米化や高齢化の影響もあり、日本でも罹患率が年々上昇傾向にあります。発症の直接的な原因は明らかではないものの加齢・遺伝・男性ホルモンの影響・高脂肪食などが危険因子として挙げられています。
前立腺がんは、早期発見・早期治療により高い生存率であることが統計的にも分かっています。初期には自覚症状がほとんど現れないこともあり、健康診断でのPSA(前立腺特異抗原)検査を通じて見つかるケースも少なくありません。
前立腺がんの予後
前立腺がんは、他のがんに比べると比較的進行がゆっくりで予後がよいがんといわれています。また血液検査でわかる腫瘍マーカーの「PSA」で比較的わかりやすい指標を示せるのも、前立腺がんの早期発見につながっているのでしょう。
前立腺がんのなかには、無症状のため誰にも気付かれないまま年月をかけてゆっくり進行する例も少なくありません。前立腺がんがあったものの気付かれずに、天寿を全うする患者さんも少なくないです。とはいえ、なかには前立腺がんの進行に気付かず骨やその他の臓器に転移した際に、痛みなどの症状を自覚して受診し、進行した状態で発覚するケースもあります。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“前立腺がんの症状・原因・検査・治療まで徹底解説|初期症状の気付きから最新の治療法まで”
前立腺がんのステージと余命・生存率

(参照:がん情報サービス前立腺がん2015年5年生存率、https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph#h-title)
前立腺がんは、その他のがんと比較しても比較的余命や生存率がよいがんとされています。実際のところ、さまざまながんがあるなかでも生存率が高いことが数値からも見て取れます。
うえの表からも分かるとおり、ステージ3までであれば生存率は90%前後の数値を示しています。こちらのグラフは2015年の5年生存率です。さまざまな治療法が新たに開発されている近年の情報が示されることが、あればさらなる高い数字も期待できそうです。
前立腺がんのステージ
前立腺がんのステージ(病期)は、がんの広がり具合を参考に4つのステージに分けられています。一般的には、TNM分類(腫瘍の大きさ・リンパ節転移・遠隔転移の有無)やグリソンスコア(悪性度の指標)をもとに分別します。
- ステージⅠ(Ⅰ期):前立腺内に限局した早期がんで、PSA値やグリソンスコアも低い。ほとんど自覚症状がなく、健康診断で偶然発見されることが多い。
- ステージⅡ(Ⅱ期):がんは前立腺内にとどまるが、やや広がりを見せる。治療による根治が十分に期待できる。
- ステージⅢ(Ⅲ期):がんが前立腺の被膜を超えて周囲の組織に浸潤している状態。
- ステージⅣ(Ⅳ期):骨やリンパ節、肺、肝臓など他臓器への転移が認められる状態で、治療の中心は延命や症状緩和を目的としたものになる。
ステージが進むほど治療の難易度が高まり、余命や生存率にも影響します。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“前立腺がんとは?初期症状・検査・治療・生存率まで医師監修で徹底解説”
前立腺がんの進行度による症状の違い

前立腺がんは、進行度により症状が異なります。前立腺がんは、尿道から遠い辺縁組織から発生することが多いのですが、初期の段階では尿道に影響を及ぼさないため自覚症状がほとんどありません。がんが進行し尿道を圧迫するようになると、さまざまな排尿障害に関する症状が出現します。
- 排尿困難
- 残尿感
- 尿の勢いが弱くなる
- 頻尿や夜間頻尿
さらに進行すると、骨への転移による腰痛や背中の痛み、リンパ節の腫れ、下肢のむくみ、体重減少、食欲不振などの全身症状が現れることもあります。前立腺がんは進行度に応じて症状の強さや種類が変化していきます。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“前立腺がんの症状・原因・検査・治療まで徹底解説|初期症状の気付きから最新の治療法まで”
前立腺がんの転移
前立腺がんに限らず、どのようながんであっても病状が進行すれば血流やリンパ流に乗り別の臓器や組織にがん細胞が散らばる「転移」が起こります。前立腺がんの場合、骨に転移しやすい特徴がありますが、それは前立腺を通った血液が背骨を経由して流れていくことが原因です。
骨転移
前立腺を通って前立腺外に運ばれた血液にはがん細胞が含まれていることがあります。骨の転移は痛みをともなう場合も少なくありません。骨への転移は、骨の内部にある海面質と呼ばれる内部構造が弱くなり潰れてしまう症状が起こります。骨の内部が骨折のような状態になるため、痛みが生じます。
リンパ節転移
前立腺がんの場合、起こりやすいのは血行性転移ですが、リンパ性の転移もあります。特に、前立腺周囲の骨盤内のリンパ節に転移しやすいです。骨盤内のリンパ節へ転移すると、足に向かうリンパ節がうまく流れなくなりむくみが生じやすくなります。
肺・肝臓
前立腺がんに起こりやすい血行性転移の遠隔転移は、肺や肝臓です。前立腺から出た血流が肝臓や肺の豊富な血流内に流入し転移します。
膀胱・大腸
膀胱や大腸は前立腺の周辺にあります。血行やリンパ節転移よりも直接浸潤され犯される転移として生じやすいです。
前立腺がんの進行スピード
前立腺がんは、がんのなかでも比較的進行が遅いタイプに分類されます。進行が非常に緩やかなタイプであった場合、治療を開始せずに経過観察のみで10年以上生活することができるケースも珍しくありません。年齢や悪性腫瘍のタイプなどを総合的に判断して、すぐに積極的な治療を必要としない「監視療法(アクティブ・サーベイランス)」が選択されることもあります。
ですが、すべての前立腺がんがゆっくり進行するのではありません。悪性度(グリソンスコア)が高い場合や、発見時すでに前立腺の外に広がっている進行がん・転移がんでは、がんの増殖スピードが早く、数ヵ月~数年単位で病状が悪化していくこともあります。悪性度が高い場合、進行している場合には速やかな治療介入が必要です。
また、前立腺がんは骨転移を起こしやすいという特徴があり、骨に転移してからは痛みや運動障害などの生活の質(QOL)の低下を引き起こす要因の一つです。骨転移が進行すると、治療に対する反応が弱くなったり、余命にも影響を与えることがあります。
進行スピードや悪性度、進行度はもちろん、患者さんの病状によって大きく異なります。
前立腺がんの治療

(参照:前立腺がんのステージ別治療 | しのろ駅前医院、https://shinopo.localinfo.jp/posts/51750797/)
前立腺がんは、標準治療だけではなくその他の治療を含めると非常に選択肢が多いのも特徴です。前立腺がんの主な治療法は、手術・放射線治療・薬物療法、その他に積極的な治療はせず変化を見守っていく監視療法があります。治療の進め方は単独で治療を進めるのではなく、いくつかの方法を組み合わせることが一般的です。
監視療法
前立腺がんのなかには非常に進行が遅く、悪性腫瘍で寿命を迎えるよりも先に天寿を全うする可能性のほうが高いと判断される症例もあります。その場合、積極的な治療により患者さんの体力や生活の質(QOL)の低下を招くよりは、不必要な負担を避けてがんの病状をしばらく様子見をする「監視療法」が取り入れられることもあります。
監視療法と言われていますが、何もするのではなく定期的な検査を実施して悪化していると判断された場合には速やかに治療を開始します。監視療法は病状の悪化の早期発見と早期対処につなげるためにも、生涯にわたって続ける必要があります。前立腺がんでは、監視療法を続けていくうちに別の要因で亡くなっている患者さんも少なくありません。
手術
前立腺がんの手術は、がんが前立腺内にとどまり、患者さんが手術で耐えられる体力がある場合に根治を目指して実施されます。一般的には前立腺を丸ごと切除して、悪性腫瘍そのものを取り出します。
前立腺を摘出することにより、がんによる転移・再発のリスクは激減します。一方で排尿や射精に関わる前立腺そのものがなくなるため、排尿障害が残ってしまうリスクや性生活の障害が生じることは視野に入れて治療を受ける必要があります。
排尿障害に関しては、術後の一定の期間を過ぎると改善してくることも十分にあり、医師と相談しながら術後のリハビリを積極的におこなうことも重要です。
一昔前までは、前立腺摘出手術はお腹を開いて摘出する「開腹手術」が主流でした。近年は腹腔鏡下で手術がおこなわれたり、ロボット支援手術で実施する施設も増えてきて、患者さんの身体的な負担は非常に少なくなってきました。
放射線療法

(参照:放射線療法|前立腺がんの治療について|What’s? 前立腺がん、https://www.zenritsusen.jp/treat/radiation/)
放射線療法は、がん細胞に対して放射線を照射し、がん細胞内にあるDNAを損傷させ細胞分裂をできなくさせ死滅させる治療法です。前立腺がんの放射線療法の場合、体の外側から放射線を当てる一般的な「外照射療法」と、体の内側から前立腺に対して放射線を当てる「内照射療法」の2つの方法が用いられます。
内照射療法は、専用の放射線を出す針を会陰部から体内に挿入し、前立腺内のがん細胞に直接放射線を当てる治療法です。一般的な放射線療法とは違い、周りの正常な臓器や細胞に及ぼす影響が少なく効率的に腫瘍細胞を攻撃できます。
ホルモン療法

(参照:前立腺癌 | 北海道大学大学院医学研究院 腎泌尿器外科学教室、https://toms.med.hokudai.ac.jp/clinic/patient/bladder02/)
前立腺がんでは、男性ホルモンの一つであるアンドロゲンとの関係性も示唆されています。前立腺がんのがん細胞にはアンドロゲン受容体があるため、アンドロゲン受容体にアンドロゲンが結合すると、がん細胞の増殖が促されてしまうと考えられています。
ホルモン療法とは、この男性ホルモンであるアンドロゲンの分泌や働きを抑えることで前立腺がんの勢いを弱める治療法として用いられています。
前立腺がんのホルモン療法に使用される薬には、男性ホルモンの働きを直接抑制する抗アンドロゲン薬、脳の視床下部や下垂体から分泌される、ホルモンを調整する「LH-RHアゴニストと・LH-RHアンタゴニスト」などがあります。
フコイダン療法
フコイダンとは、コンブやワカメなどの海藻類に含まれる多糖類の一種です。がんに対して抗腫瘍作用や免疫賦活作用を持つ可能性があるとして、近年注目されている天然成分です。フコイダンには以下のような働きが期待されています。
- アポトーシス(がん細胞の自然死)の誘導
- がん細胞の増殖抑制
- 免疫細胞の活性化による免疫力の向上
前立腺がんに限りませんが、さまざまながんの症例で、フコイダンを活用したあとに病状が改善したとの報告も見られています。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“臨床結果 – フコイダンラボ”
まとめ
前立腺がんはがんのなかでも比較的進行がゆっくりで、早期発見できれば高い生存率が期待できる病気です。一方で、進行がんや転移が認められる場合は、生活の質(QOL)や余命に影響を与えることもあります。
気になる症状がある方は早めに医療機関での相談を検討しましょう。近年では血液検査でできる腫瘍マーカーの測定「PSA検査」を通じて、前立腺がんの“早期発見・早期治療”が可能になっています。意識的に行動に移すことが、ご自身の健康を守る第一歩です。

