2022.02.24
がん沈黙のがん「卵巣がん」を知る:原因から治療、予後までを解説
卵巣がんは女性だけに生じるがんの一つです。初期症状がほとんどなく、発見が遅れやすい特徴があります。お腹の奥深くにある卵巣で静かに進行し、症状が出にくいため“沈黙のがん”とも呼ばれています。
卵巣がんは早期発見が難しいので、進行した状態で見つかることも少なくありません。治療の進め方も他のがんとは異なり、手術を経て初めて確定診断がなされます。この記事では、卵巣がんの特徴や原因、検査・治療法、予後や新しい療法まで詳しく解説します。
※大腸がんの概要については以下の記事を参考にしてください。
>>大腸がんとは?その症状について
目次
卵巣がんとは

(参照:卵巣の腫瘍とがん – 公益社団法人 日本産科婦人科学会、https://www.jsog.or.jp/citizen/5715/)
卵巣がんとは、その名のとおり子宮の近くにある卵巣に悪性腫瘍を形成する疾患です。卵巣を形成する組織は卵巣の表面を覆っている「上皮組織」、卵子のもとになる「胚細胞」、性ホルモンを生成する「性索間質」などがあります。卵巣がんはこの上皮組織から生ずるタイプが主流で、一般的に卵巣がんといえばこの上皮性の悪性腫瘍のことを指しています。
卵巣がんのステージ

(参照:卵巣がんの分類 | 卵巣がんサポートナビ | 武田薬品工業株式会社、https://www.takeda.co.jp/patients/ransougan/know/page03.html)
卵巣がんのステージを正確に決定するには、手術が不可欠です。卵巣はお腹の中のさらに骨盤の深いところにあります。卵巣がんは、他のがんとは異なり、手術前に確定診断や進行度を正確に把握することが難しいがんです。手術で実際に卵巣や子宮、腹腔内の状況を直接観察し、病理検査などを経て最終的に正確なステージを決定します。

(参照:子宮体がんの治療について | 国立がん研究センター 東病院、https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/gynecologic_surgery/001/index.html)
卵巣がんのステージは主に4つのステージに分類され、さらにA・B・Cというように細かく分けられています。決定したそのステージごとに、手術前後の治療方針の決定に役立てています。
卵巣がんのステージを簡単に分別すると以下のように分けられます。
- ステージI(がんが卵巣にとどまっている状態)
- ステージII(骨盤内に広がっている)
- ステージIII(骨盤外に広がっている)
- ステージIV(体の遠くまで転移している)
ステージが上がるごとに病状が深刻になっていきます。
卵巣がんの組織型

(参照:卵巣がんの分類 | 卵巣がんサポートナビ | 武田薬品工業株式会社、https://www.takeda.co.jp/patients/ransougan/know/page03.html)
卵巣がんは発生する細胞の種類によって大きく3つの組織型に分類されます。卵巣がんの代表ともいえるのが表層にある上皮細胞から発生する「上皮性腫瘍」です。卵巣がんのうち全体の約90%を占めます。比較的年齢が高い女性に多く、発見時には進行していることも少なくありません。
比較的若い世代に多いのが「胚細胞腫瘍」です。胚細胞腫瘍は将来卵子になる未熟な細胞(胚細胞)から発生する腫瘍で、比較的まれで全体の約5%。早期発見されれば治癒も十分に期待できます。
「性索間質性腫瘍」は卵胞を支える間質やホルモンを分泌する細胞に由来し、全体の約4%程度とされています。ホルモン産生性がある症例もあり、不正出血などの症状で見つかることもあります。
卵巣がんの原因
卵巣がんの原因は、はっきりとしたことはいまだ分かっていません。関連性が考えられていることの一つに、遺伝的な背景と排卵回数の関係があります。遺伝的な要因としてBRCA1・BRCA2という遺伝子に変異がある女性では発症リスクが高いというデータが出ています。
また、未経産・不妊・閉経が遅い・ホルモン補充療法なども卵巣の細胞に負荷をかけるためリスク因子とされています。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“卵巣がんとは?初期症状が乏しい“サイレントキラー”の特徴と予防・治療の基本”
卵巣がんの検査

卵巣がんの場合、他の婦人科疾患とは異なり検診のように手軽にチェックできる検査がほとんどありません。しかも初期症状に乏しく、何らかの症状が出てきたときには病状が進行していることもあります。
後々振り返ってみると、なんとなく便秘がちだったとか尿が出づらかったというような症状が生じていたこともあるようです。しかし、日常生活に不便することがなく、見過ごしてしまったという患者さんもいます。
「この検査で異常があれば卵巣がん」という確定的な検査方法がないことも、卵巣がんの発見を遅らせる要因の一つといえるでしょう。
内診
お腹のはりやしこりなど何らかの異常や自覚症状があって受診した場合、医師が手袋をはめて指を膣から入れ、もう片方の手を下腹部において内外から挟むようチェックするのが内診です。ある程度の腫瘍の大きさになっていれば、何らかの異常が発見されることもあります。
超音波検査
超音波検査はお腹の表面部分からおこなう場合と、膣の内部に器具を入れて超音波を照射し検査する2つの方法があります。卵巣腫瘍の有無や周辺組織の状態の大きさ、位置関係などをチェックすることができます。腫瘍の血流の有無も一緒に観察できる機械もあるため、悪性か良性かの判定にも活用できます。
MRI・CT
卵巣がんが疑われた場合に組み合わせておこなわれる検査が、CTやMRIなどを初めとした画像診断です。がんの大きさや広がりだけではなく、周辺組織やリンパ節転移などの有無もチェックできます。画像診断は患者さんの負担や羞恥心が少なく検査できるのもメリットの一つです。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、悪性腫瘍が血液中に放出するタンパク質を測定する検査です。血液検査で簡単にチェックできるので、近年ではさまざまながんの検出の補助として使われています。卵巣がんの場合に該当する腫瘍マーカーは「CA125、CA199」などです。
病理検査(手術後に実施)
卵巣がん以外のがんは、確定診断として手術前に生検して病理検査を実施するのが一般的です。残念ながら卵巣がんは、手術前にはどの程度進行しているかという正確な診断ができません。手術をして悪性腫瘍を取り出し、細胞を観察する病理検査を経て、初めて卵巣がんの正確な進行具合が確定します。
卵巣がんの治療

(参照:卵巣がん・悪性卵巣腫瘍|京都済生会病院、https://www.kyoto.saiseikai.or.jp/pickup/2025/03/post-88.html)
卵巣がんの主な治療法には手術療法、薬物療法、放射線療法などがあります。卵巣がんの治療を進める場合にも、最初に手術をしてできるだけがんを取り除くことを前提として、そのあとにいくつかの治療法が併用されます。卵巣がんの基本的な治療は手術と化学療法です。
手術

(参照:卵巣がん・悪性卵巣腫瘍|京都済生会病院、https://www.kyoto.saiseikai.or.jp/pickup/2025/03/post-88.html)
卵巣がんは治療の選択肢が少なく、かつ卵巣がんの治療方針を決める重要なステージは手術で最終決定されます。卵巣がんの初回治療の第一選択は基本的に手術です。手術によって卵巣周囲の臓器の広がり具合などを実際に観察し、摘出した腫瘍を病理検査して初めて正確な診断をつけることができます。
卵巣がんにおいては、手術は治療でありながらも診断を確定するための最終的な検査という役割も持っています。
子宮全摘出術
卵巣がんでは、がんが子宮へ直接浸潤していなくても、今後の再発リスクや病期進行の可能性を考慮して、子宮を丸ごと摘出する「子宮全摘出術」が基本です。卵巣と子宮は靱帯でつながっているので、物理的に近いためがんが広がりやすいです。予防的に子宮も摘出する方針が取られています。
両側付属器摘出術
両側の卵巣と卵管を同時に摘出する術式です。たとえがんが一側の卵巣のみに限局しているように見えても、反対側の卵巣や卵管に微小転移していることもあるため、基本的には両側を切除します。
大網郭清術(大網切除術)
大網とは、胃と大腸の間にある脂肪と血管でできた膜状の組織です。卵巣がんでは大網への転移が見られやすいです。手術では、転移の有無を確認する目的で大網を切除します。大網郭清によって、肉眼では確認できない小さな病変の存在を見逃さずに済むというメリットがあります。
リンパ節郭清術
がんの進行状況を正確に把握するためにおこなわれるのがリンパ節郭清術です。骨盤内および腹部の大動脈・大静脈に沿ってリンパ節を切除します。切除したリンパ節は病理検査により転移の有無を確認します。リンパ節転移があれば、術前にⅠ期と診断されていても、Ⅲ期へとステージが変更されることもあり、治療方針を決定するうえで重要な検査の一つです。
妊よう性温存片側付属器摘出術
妊娠・出産を希望する若年の患者さんで将来のことを考える場合、
条件が整えば片側の卵巣と卵管のみを摘出し、子宮と健康な卵巣を温存する選択も可能です。片側の卵巣を残せるかどうかの判断は、がんの組織型や病期、再発リスクなどを慎重に評価したうえで決定します。術後も経過観察や追加治療が必要となる場合も少なくありません。
リスク低減卵管卵巣摘出術(riskreducingsalping-oophrectomy:RRSO)

(参照:卵巣がんの治療について | 国立がん研究センター 東病院、https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/gynecologic_surgery/003/index.html)
2020年から、BRCA遺伝子変異がある女性は、将来的ながんのリスクを下げるために、予防的に卵管・卵巣を摘出するリスク低減卵管卵巣摘出術が選択できるようになりました。もう妊娠を望まない時点で手術を検討するのが一般的です。
薬物療法

(参照:卵巣がんの薬物療法 | NPO法人キャンサーネットジャパン、https://www.cancernet.jp/cancer/ovary/ovary-chemo)
卵巣がんの初回手術によりステージが確定した場合、術後に化学療法を追加するのはステージ1〜2期です。 ステージ1Aから1Bで、悪性度が低い場合は初回の手術で治療は終了となりますが、それ以外の場合は基本的に手術後に化学療法がおこなわれます。
逆に遠隔転移などがあり、体内にあるすべての腫瘍を1回の手術で十分に摘出することが難しいと予想される場合には、手術前に化学療法をおこない、腫瘍を小さくして手術を実施することもあります。
卵巣がんに対する化学療法は基本的に2剤併用療法です。タキサン系と呼ばれるパクリタキセルとプラチナ製剤のカルボプラチンを併用する「TC療法」が基本です。がんの組織型により期待される効果が乏しければ、TC療法以外の選択肢を取り入れる場合があります。
その他に近年では、従来の抗がん剤に比べて正常な細胞への影響が少なく、がん細胞を攻撃できる分子標的薬「ベバシズマブ」の併用もされるようになりました。
フコイダン療法
フコイダンは、褐藻類に含まれるぬめり成分で、抗腫瘍作用(がん細胞を攻撃し増殖を抑える働き)や免疫賦活効果(身体の免疫の働きを高める作用)が期待できます。卵巣がんに対する補完的療法としても注目されていて、当院では、化学療法との併用でリンパ節転移が消失したという症例を確認しております。
実際に、こちらのケースでは中分子フコイダンを活用した結果、卵巣がんの腫瘍マーカーであるCA125が67から正常範囲内の28に改善した経過が観察されています。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
>>“臨床例②:ステージⅢCの卵巣がんの腹膜播種(62歳女性)”
卵巣がんの患者数・予後

(参照:解説#1 “卵巣がん“という病気を知って欲しい! 2022/02/24 | 卵巣がん:診断と治療を支えたい!AIを用いた新規予測システムの開発(古宇 家正(広島大学大学院医系科学研究科 産科婦人科学) – クラウドファンディング READYFOR、https://readyfor.jp/projects/ransouganaisystem/announcements/204892)
卵巣がんは、女性特有のがんのなかでも死亡率が高い疾患として知られています。国立がん研究センターの統計によると、罹患数・死亡数ともに年々増加傾向にあります。
2014年には新規罹患者が約1万人でしたが、2018年には1万3千人を超え、今後も増加が懸念されています。一方で、2014年の死亡者数は約4,800人、2019年もほぼ横ばいの約4,700人と、高い水準で推移しています。
体内における卵巣の位置関係上、卵巣がんは早期発見が難しいがんの代表の一つのためといえるでしょう。
卵巣がんの予後

卵巣がんの予後は、診断された時点の進行度によって大きく異なります。全体の5年生存率はおおよそ60%程度ですが、進行してから発見された場合は40%を下回ることもあります。
初期段階ではほとんど自覚症状がないため、発見時にはすでに病期が進んでいるケースが多いことも生存率を下げる一因です。
治療技術の進歩により手術や抗がん剤に加えて分子標的薬や免疫療法の導入が進んできているので、今後は生存率の改善が期待されています。
現状、卵巣がんは婦人科悪性腫瘍のなかでも死亡率が高いがんの一つであり、早期診断・早期治療の体制づくりが今後の予後改善における課題といえるでしょう。
まとめ
卵巣がんは自覚症状が現れにくく、進行してから見つかるケースが多いがんです。発見が遅れることで治療が難しくなることもあり、早期発見が重要です。
残念ながら現時点では検診で早期に見つける手段が限られているため、日頃の体調の変化を見逃さず、定期的な婦人科受診を意識したいところです。治療では手術や化学療法を中心に、分子標的薬など新しい治療法も導入されています。
自身や家族の健康を守るためにも卵巣がんについて正しく理解し、必要に応じて検査や受診につなげていきましょう。
近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。
なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。
フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。
それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。
「中分子フコイダン」を用いた臨床結果の一例を紹介しています。どういった症状に効果があるか具体的に知りたい方は臨床ページをご覧ください。
>>「中分子フコイダン」を用いた臨床結果
>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ
がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。
がんの種類を知る
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