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成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは?原因・発症率・症状・治療法まで徹底解説

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは?原因・発症率・症状・治療法まで徹底解説

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は、HTLV-1ウイルスの感染によって発症する血液がんの一種です。免疫力が低下するのが主な病態で、免疫機能を持つT細胞が異常をおこし増殖することで、さまざまな症状を引き起こします。

HTLV-1に感染したとしても、発症率は約5%とされています。感染があったからといって必ずしも病気になるわけではありません。

しかし、一度発症すると進行が早い病型もあるため注意が必要です。

この記事では、成人T細胞白血病・リンパ腫の原因や症状、診断方法、治療法について詳しく解説します。

>>白血病の種類と特徴を徹底解説:タイプ別症状と治療法の違い

日置医院長

この記事の監修者
日置クリニック 院長
日置 正人 医学博士

【経歴】
昭和56年3月 
大阪市立大学医学部卒業
昭和63年3月 
大阪市立大学大学院医学研究科卒業
平成5年4月 
医療法人紘祥会 日置医院開設

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成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは

さまざまな種類の白血病があるうち、はっきりとした原因がわかっているのが成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)です。

成人T細胞白血病・リンパ腫は「HTLV-1」というウイルスの感染が原因となり発病します。要因が自分の体の外から入ってくる、特殊なタイプの血液のがんといえるでしょう。

HTLV-1は潜伏期間が非常に長く、ほとんどの患者さんは生涯発症することもありません。

この病気は、人の体を細胞やウイルスなどから防御する免疫反応に重要な役割を持つ「T細胞」に、HTLV-1ウイルスが感染してがん化します。

つまり、この病気にかかるとT細胞が正常に働きにくくなり、免疫力の低下がおこりやすくなるのです。

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の原因

HTLV-1ウイルスとは、「Human T-Lymphotropic Virus Type-1(ヒトTリンパ球向性ウイルス1型)」の略称です。免疫細胞の一種である白血球のT細胞に感染します。

感染したとしてもすぐに症状が発症するわけではなく、無症状で一生を終えることも少なくありません。

血液のがんとして発症するほかに、ブドウ膜炎や脊髄症の要因になることもあります。

HTLV-1の感染経路

HTLV-1ウイルスは「母乳・性交渉・輸血」のいずれかから感染すると考えられています。

輸血経由の感染については、現在ではほとんど心配はありません。1986年以降に献血の際に抗HTLV-1抗体検査がされるようになったためです。

また、妊娠したときにHTLV-1抗体検査をおこなうため、母親となる人物が陽性かどうかを知ることもできます。

陽性だった場合には、母乳育児などを始めとした子どもへの栄養法を検討することで、母子感染の予防策が講じられます。

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)発症率と地域差

成人T細胞白血病・リンパ腫の発症率は約5%との数値がでています。これはHTLV-1ウイルス陽性の人のなかで確認された数字です。つまり、感染が確認できたとしても、95%の人は発症せずに一生を終えるとも考えられます。

生まれてすぐHTLV-1ウイルスに感染する場合、母乳を飲む時期に感染します。母乳を飲んで乳児期に感染したと仮定した場合、この病気が発病するまでには通常40〜50年以上という非常に長い時間を要します。

また、感染者は九州から沖縄地方に集中しています。感染経路は母乳による母子感染が主体です。

HTLV-1ウイルスへの感染ルートは「母乳・性交渉・輸血」ですが、母乳による母子感染が多いため、特定の地域に集約する傾向が考えられているのです。

しかし近年では、交通機関の発達により人の移動も容易におこるので都市部での感染もみられるようになってきました。

成人T細胞白血病・リンパ腫の分類

成人T細胞白血病・リンパ腫の確定診断のためにさまざまな各種検査が実施され、その結果によりATLは「急性型・リンパ腫型・慢性型・くすぶり型」の4つの病型に分類され、それぞれ治療法が異なります。(検査方法については後述します)

さらに、臨床的には以下の2種類に分別されます。

    • アグレッシブ型:急性型・リンパ腫型・予後不良因子を有する慢性型

 

  • インドレント型:予後不良因子を有さない慢性型・くすぶり型

 

急性型

成人T細胞白血病・リンパ腫の典型的な病型でもある急性型。血液中に細胞の核に切れ込みのある独特な形のATL細胞(核が花弁のようにみえるのでフラワー細胞とも呼ばれる)が多数出現する病態です。

一般的に骨髄中のATL細胞は、少数しか存在しないこともあります。この病気の特徴は通常の白血病とは異なり、腫瘍の増殖する主な場所は骨髄ではなく血液のなかにあることです。

リンパ腫型

リンパ腫型は、血液中にATL細胞の増加はみられず、リンパ節の肥大が主となる病態です。リンパ系組織のがんである悪性リンパ腫と同じタイプの病態であるといえるでしょう。

この病気が認識された当初は、成人T細胞白血病と呼ばれていましたが近年ではこのようなリンパ腫型も多数存在することがわかったので、現在は「成人T細胞白血病・リンパ腫」というひとくくりの病名で呼ばれるようになりました。

慢性型

慢性型は「予後不良因子」を有するか有さないかにより、2つのタイプにわけられます。病状が進行しやすいと予測される予後不良因子には検査値として以下の特徴がみられます。

①LDH高値(肝機能の数値)

②血清アルブミン低値(肝臓で合成されるたんぱく質)

③BUN高値(たんぱく質代謝後の老廃物)

慢性型で予後不良因子が見られない場合には、症状が生じていない限り経過観察で対応するのが一般的です。

くすぶり型

予後不良因子を許さない慢性型とくすぶり型は、ATL細胞や皮膚病変は認められるものの病状の進行は比較的ゆっくりです。一般的には治療をせずに経過観察をする体制をとります。

成人T細胞白血病・リンパ腫の症状

成人T細胞白血病・リンパ腫には多彩な症状があります。T細胞が異常に増えることで主な症状が生じます。発症した初期の頃には発熱、倦怠感のほかに皮膚に異常が生じたり、リンパ節の腫れがみられることもあります。

病気が進行し、肺や肝臓神経などに広がっていくと咳や痰、頭痛、黄疸、吐き気、意識障害などが現れることもあります。また、食欲不振、だるさなどの症状もみられます。

問題となるのはT細胞の免疫力が低下することです。普段健康なときにはかからないさまざまな感染症にかかりやすくなります。

免疫がうまく働かなくなると、日和見感染(ニューモシステムスティス肺炎)などをおこす危険性が高くなります。

また、高カルシウム血症などもおこりやすくなり、その症状として意識障害などが生じることもあります。

臓器が腫れる症状も特徴的で、リンパ節、肝臓、脾臓の腫大がみられます。皮膚症状としては皮膚の紅斑もでてきます。

成人T細胞白血病・リンパ腫の診断と検査

成人T細胞白血病・リンパ腫の診断と検査
ATLの診断の際には、以下の検査によりさまざまな状態の確認がなされます。

  • 血液検査:異常なT細胞(CD4陽性、CD25陽性)の増加を確認
  • HTLV-1抗体検査:HTLV-1感染の有無を確認
  • 骨髄検査:白血病細胞の浸潤を調べる
  • 遺伝子検査:HTLV-1ウイルスDNAやT細胞受容体遺伝子異常の検出
  • 画像診断(CT・PET-CT・MRI):リンパ節・臓器の腫大、神経系浸潤の評価
  • 組織生検:リンパ腫型や皮膚病変の確定診断

白血病に関連する各種検査と、HTLV-1を検出するための検査が複合的に実施されます。詳細の検査内容については、以下の記事も参考にしてみてください。

>>白血病の検査方法とは?骨髄検査・血液検査・遺伝子検査まで詳しく解説

ATL臨床病型の診断基準
(参照:http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/2_9.html

これらの検査を実施し、得られた結果によってATLのタイプと治療方針が定められています。

成人T細胞白血病・リンパ腫の治療法

現在のところ、成人T細胞白血病・リンパ腫に対する標準的な治療法は確立していません。一般的な急性白血病の治療とは異なり、成人T細胞白血病・リンパ腫に対する治療は悪性リンパ腫の化学療法に似た多種類の抗がん剤を併用した治療をおこなう場合が多いです。

ATLの治療方針

ATLの治療方針
(参照:http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/2_9.html
日本血液学会の造血器腫瘍診療ガイドライン2018年の治療アルゴリズムを参照にするとATLの治療方針は以下のように推奨されています。

一般的には病気のタイプに応じて治療方針は決められます。くすぶり型と予後不良因子のない慢性型に関しては経過観察を推奨しています。

一方、予後不良因子のある慢性型リンパ腫型急性期型に対しては治療の介入を推奨しています。

予後不良因子のある慢性型リンパ腫型急性期型に対しておこなわれる化学療法は、悪性リンパ腫の化学療法に似せた化学療法が用いられます。

主に用いられる化学療法には「VCAP-AMP-VECP療法・CHOP療法」があります。

しかし残念ながらこれらの化学療法の成績は、決して満足のいくものではありません。可能であれば同種造血幹細胞移植をすすめられることもあります。

造血幹細胞移植の適応と効果

成人T細胞白血病・リンパ腫の治療で治癒を望む場合の有効的な手段の一つに「同種造血幹細胞移植」があります。近年では移植技術の進歩にともない、移植を実施した場合、40%程度の患者さんに長期生存が期待できるようになりました。

経過観察をしないアグレッシブATLと診断された場合、ただちに多剤併用化学療法を実施します。さらに年齢や全身状態などを加味して可能であれば、早い段階で造血幹細胞移植を視野に入れ動き始めます。

治療をすすめながら血縁者や非血縁者さい帯血を含めてドナーの探索も並行しておこなうのが一般的です。ドナーがみつかれば早い段階で移植をおこなうことも検討されます。

新規薬剤の進展

近年になり成人T細胞白血病・リンパ腫を対象とした新しい薬剤がいくつか登場しています。2012年には抗CCケモカインレセプター4(CCR4)、抗体薬モガムリズムブ(ポテリジオ)が使用可能になりました。

モガムリズムブはATL細胞の表面にあるCCR4という分子を標的とする分子標的薬です。再発例を対象としたモガモリズム単独の治療でも、50%以上の部分寛解以上の効果が得られており、初回治療時に多剤併用化学療法と併用することも可能になりました。

さらに2017年には、免疫調整薬レナリドミド(レブラミド)が使用可能となりました。
レナリドミドはこれまで多発性骨髄腫と、5番染色体長腕欠損がある骨髄異形成症候群の治療に用いられてきた免疫調整薬と呼ばれる薬剤です。

再発・難治性の成人T細胞白血病・リンパ腫に対してレナリドミド単独の投与により42%に効果がみられたとも報告されています。

これらの薬剤は、よい結果はでていますが使用経験自体が十分ではないため、今後の研究や治療結果を待つことになりそうです。

まとめ

まとめ
成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は、HTLV-1ウイルスの感染を原因とする特異な血液がんです。感染したとしても発症率は低いものの、一度発症すると進行が早く、治療が難しい場合もあります。

現在では、新しい薬剤や造血幹細胞移植などの治療法が進歩しており、長期生存の可能性も広がっています。HTLV-1の感染を予防するためには、母子感染の防止対策や検査の活用が重要です。

ATLに関する正しい知識を持ち、早期診断・適切な治療を受けることが、病気と向き合ううえで大切なポイントとなるでしょう。

近年のがん治療には統合医療もおこなわれるようになっています。

なかでも注目を集めているのがフコイダン療法。中分子フコイダンが持つ作用に着目した療法で、がん治療によい効果をもたらすと期待されています。

フコイダン療法は、抗がん剤との併用が可能です。

それだけではなく、抗がん剤と併用することでその効果を高め、副作用の軽減も見込めると言われています。

>>フコイダンとがん治療についてもっと詳しく知りたい方はこちらへ

がん治療における選択肢の1つとしてフコイダン療法があることを念頭に置き、医師と相談したうえでベストな治療方法を考えていきましょう。

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この記事の執筆者
日置クリニック コラム編集部

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