白血病は遺伝する?正しい知識と遺伝子異常の仕組み
「白血病は遺伝するのでは?」家族に白血病の患者さんがいると、こうした不安を抱く方は少なくありません。がんという病気の性質上、遺伝を連想しやすいこともあるのでしょう。しかし実際には、白血病は親から子へ受け継がれる「遺伝病」ではありません。白血病の発症には遺伝子の異常が関わってはいますが、その多くは生まれつきの遺伝ではなく、細胞分裂の過程で偶然起こる後天的な異常によるものです。
白血病では、特定の遺伝子異常が確認されることがあります。「遺伝」と「遺伝子異常」が混同されやすいことが誤解の原因になっていると考えられます。これらは白血病細胞の増殖や成熟の異常に深く関わる重要な要素ですが、あくまで「細胞のなかで起こる変化」であり、家族に受け継がれるものではありません。
この記事では、白血病の遺伝子異常と家族遺伝性の有無について深掘りし、家族のなかに白血病患者さんがいた場合、自分の健康維持を考えたときに意識してできることまでを解説します。
目次
白血病は「遺伝病」ではない
白血病に対して、「がんだから遺伝するのでは?」「家族に白血病がいると自分もなるの?」と不安に感じる方は少なくありません。しかし、医学的には白血病は遺伝病ではありません。親から子へ病気そのものが受け継がれるタイプの遺伝疾患とはまったく異なります。
白血病は遺伝によるものではなく、後天的に細胞の遺伝子に異常が起こり発症することの多い病気です。細胞が分裂を繰り返す過程で偶然エラーが起きたり、年齢や環境要因によって遺伝子に変化が生じたりすることで発症します。
そのため、家族に白血病の患者さんがいても、発症リスクが大きく上がるわけではありません。医学的なデータでも、白血病の家族集積性(家族内で複数人が発症する割合)は最大でも10%程度と報告されています。※1
※1 臨床雑誌内科133巻4号、2024年
特集 患者さんからよく尋ねられる内科診療のQuestion
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_naika133_724
糖尿病や高血圧などの生活習慣病に比べても、家族歴の影響がかなり小さいといえます。
白血病は「遺伝する病気」ではなく、遺伝子に起こる変化が原因になる病気で、遺伝子異常の多くは後天的に起こるものです。
白血病に対して「遺伝する」という誤解が広がりやすいのは、病名から「白血球の異常」というイメージが強いことや、がんの一種であることから遺伝性を連想しやすいためと考えられます。しかし、実際には遺伝病とは異なるメカニズムで発症するため、家族に患者さんがいても過度に心配する必要はありません。
白血病は「遺伝」ではなく「遺伝子異常」で起こる
白血病はほとんどの場合、はっきりとした原因がわかっていません。一般的には、何らかの原因で血液細胞内の遺伝子が傷つく、または遺伝情報が正しく伝わらなくなることによって、勝手に分裂増殖を繰り返すようになった細胞が生じている状態が白血病といわれています。
このように白血病の原因は遺伝子異常ですが、血縁者に引き継がれるものではありません。
血液系の細胞に限らず、体内では全身のさまざまな細胞が日々細胞分裂を繰り返し、古くなった細胞が新しい細胞に置き換わっています。細胞の核の部分にある、細胞の増え方をコントロールしている遺伝子(DNA)に異常が起こり、分裂・増殖をコントロールできなくなった細胞が「がん細胞」です。がん細胞が血液細胞に生じると、白血病といわれるようになります。
遺伝子異常が起こると考えられている要因
ほとんどの場合、血液細胞に遺伝子異常が生じる原因はわかっていません。しかし、いくつかの要因として、関連性があると考えられているものもあります。
大量の放射線や化学物質
一般的なレントゲン検査やCT検査程度に用いられる量の放射線なら問題ありませんが、大量の放射線を浴びると白血病を発症するリスクが高まることがわかっています。また、別の病気を治すための放射線治療や抗がん剤の影響を受け発症するケースもあるようです。
放射線の大量被曝は細胞を傷つけます。傷ついた細胞は遺伝子のコピーミスを起こしやすく、白血病の発症の一因となります。
広島と長崎の被爆者を対象とした疫学調査において、平均200mGy以上の放射線を浴びた場合に、白血病の発症リスクが1.5倍以上になるという調査結果も報告されています。
また、白血病の発症要因の1つとして、化学物質のベンゼンがあげられています。動物実験の調査報告ではありますが、遺伝子への障害性が確認され、白血病との因果関係があると考えられています。
ウイルスや細菌の感染
白血病との因果関係がわかっているウイルスや細菌の感染に「成人T細胞白血病・リンパ腫」というものがあります。成人T細胞白血病・リンパ腫は「HTLV-1」の感染が原因で、一般的には母乳による母子感染や性交渉、輸血で発生する病気です。
HTLV-1に感染しても白血病になるとは限らず、発症率は5%です。そのため、「キャリア」というウイルスを保有しているだけの状態で一生を終える人がほとんどです。
>>成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)とは?原因・発症率・症状・治療法まで徹底解説
高齢化
他の悪性腫瘍の疾患と同様に、加齢は発がんのリスクを高めることがわかっています。年齢を重ねることにより、がん細胞に対する免疫による抵抗力が弱まるためと考えられています。
>>白血病の原因と食べ物の関係は?発症リスクを下げる生活習慣はあるの?
白血病でみられる遺伝子異常

(参照:急性骨髄性白血病|血液内科|新百合ヶ丘総合病院、
https://www.shinyuri-hospital.com/department/08_hematology/disease_01.html)
人の細胞の核には2本で1組の染色体が合計23対あり、合計46本存在します。染色体を構成しているDNAの中には、さまざまな遺伝子が組み込まれています。新しい細胞を作り出すときにこの染色体を複製しますが、ときどきコピーミスが起こりがん化につながってしまうことがあります。白血球で見られる遺伝子異常は、次のとおりです。
フィラデルフィア染色体・BCR-ABL1融合遺伝子

(参照:第3世代の新薬も登場! さらに進化する慢性骨髄性白血病の最新治療|がんサポート、https://gansupport.jp/article/cancer/blood/cml/15803/)
フィラデルフィア染色体とは、9番の染色体と22番の染色体が切れてお互いの切断面が融合した異常な染色体です。このフィラデルフィア染色体は、成人急性リンパ性白血病で20〜25%、慢性骨髄性白血病ではほとんどの患者さんに確認できます。
フィラデルフィア染色体には、9番染色体に存在するABL遺伝子と22番染色体に存在するBCR遺伝子が融合した「BCRーABL融合遺伝子」という遺伝子異常が確認されます。BCRーABL融合遺伝子からはBCRーABL融合遺伝子タンパク質が作られて、腫瘍の産生・増殖に関わるチロシンキナーゼが活性化することがわかっています。
FLT3遺伝子

(参照:血液がん治療の手助けとなる遺伝子検査|大塚製薬、https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/blood-cancer-genetics/genetic-testing/)
FLT3遺伝子は、13番目の染色体に確認できる遺伝子です。白血球の増殖や分化に関わっています。急性骨髄性白血病(AML)では、このFLT3遺伝子に異常が生じるケースが多く、白血病細胞の増殖を促すことがわかっています。
FLT3遺伝子異常があるAMLは、白血病細胞が急速に増える傾向があり、再発リスクが高くなることが報告されています。
その他の遺伝子異常

(参照:急性骨髄性白血病の検査|教えてがんのコト、https://oshiete-gan.jp/leukemia/facts/test/aml.html)
白血病では、フィラデルフィア染色体やFLT3遺伝子以外にも、遺伝子や染色体の異常が確認されることがあります。遺伝子や染色体に起こる異常は、白血病細胞の分化や増殖を妨げるため、白血病の病態に深く関わっています。
- PML::RARA融合遺伝子

(参照:血液がん治療の手助けとなる遺伝子検査|大塚製薬、https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/blood-cancer-genetics/genetic-testing/)
15番染色体と17番染色体が入れ替わる転座(本来離れた場所にある2本の染色体の一部が入れ替わり異なる位置に移動してしまうこと)で、急性前骨髄性白血病で見られます。
- RUNX1-RUNX1T1融合遺伝子
8番染色体と21番染色体の転座で、急性骨髄性白血病で見られます。
家族に白血病患者さんがいる場合に意識しておくこと
家族に白血病の患者さんがいると、自分も発症するのではないかと不安に感じる方もいるでしょう。繰り返しになりますが、基本的に白血病は血縁者に発症する「遺伝病」ではなく、家族に患者さんがいても発症リスクが大きく上がるわけではありません。
とはいえ、健康管理の一環として、定期的な検診で血液の状態をチェックすることをおすすめします。白血病は症状があったとしても「なんかだるいな……」「かぜかな?」などちょっとした体調不良や感染症に似た症状のため、見過ごされやすい傾向にあります。白血病を早期発見するには、健診でおこなわれる血液検査「CBC(全血球計算)」が非常に有効な方法の1つです。
白血病では、下記の複数の数値が異常となることが多いため、健診でのチェックが欠かせません。
- 白血球数(多い・少ない)
- 赤血球・ヘモグロビン(貧血の有無)
- 血小板(出血傾向の有無)
- 好中球・リンパ球の比率
血液検査で白血病が疑われた場合にのみ、「白血病の精密検査(骨髄検査・染色体検査・遺伝子検査)」が実施されます。
以上のことから、家族歴がある方ができる最も現実的で効果的な対策は、次の3つです。
- 年1回の健康診断でCBCを必ず受ける
- 必要に応じて半年に1回の血液検査を追加する
- 過去の数値と比較して変化をチェックする
まとめ
白血病は遺伝する病気ではありません。家族に白血病の患者さんがいても、発症リスクが大きく上がるわけではなく、家族集積性も約10%程度と報告されています。親から子へ受け継がれる遺伝ではなく、後天的に細胞の遺伝子に起こる変化によって発症する病気です。
白血病にはフィラデルフィア染色体やFLT3遺伝子など、特定の遺伝子異常が関わることが知られています。これらは遺伝ではなく、細胞分裂の過程で偶然起こるエラーや、年齢・環境要因によって生じる後天的な変化です。
家族に白血病がいる場合にできる現実的な対策は、定期的な血液検査(CBC)で血球の状態をチェックすることです。白血病は早期の自覚症状が乏しいため、早い段階で異常をとらえるには血液検査が有効な手段になります。
正しい知識を持つことで不必要な不安から解放され、自分自身の健康維持の一助にもつなげていきましょう。

